情報エコシステムの中での誤・偽情報の重要性をメディア消費データから検証した論文 アメリカ人の誤・偽情報摂取量はわずか0.15%
この論文は前の記事( https://note.com/ichi_twnovel/n/n06d3fda04ac2 )で紹介されていた資料のひとつ「Evaluating the fake news problem at the scale of the information ecosystem」( https://doi.org/10.1126/sciadv.aay3539 )だ。
●概要
この論文は情報エコシステムにおける誤・偽情報の重要性に注目したものである。多くの調査研究では誤・偽情報そのものに注目することが多いが、全体の情報エコシステムに中での規模や影響について触れていないことが多い。2016年1月から2018年12月までの3年間にわたる、アメリカ人の1日のPC、モバイル、テレビのメディア消費を調査した結果である。日本で見かけるメディア消費に関する調査はアンケートが多いが、この調査ではテレビではニールセンのパネル、PCとモバイルではニールセンとComscoreのパネルを用いているため、アンケートよりも実態を反映していると考えられる。
調査の結果、アメリカ人の情報エコシステムの中での誤・偽情報について調査した結果、3つのレベルで一般に言われていることとは異なることがわかった。
1.ほとんどのメディア消費はニュースではない。
2.アメリカ人がニュースを消費するのは圧倒的にテレビが多い。
3.アメリカ人の誤・偽情報摂取量は全体のわずか0.15%。
グラフを見ると一発でわかるように誤・偽情報は情報エコシステム全体の中できわめて限られた露出しかなかった。
●感想
誤・偽情報にはプロパガンダ・パイプラインやフェイクニュース・パイプラインといった形で他のメディアに取り上げられて拡散する間接的な露出もあるので、この論文を全面的に信用するわけではないが、これだけ圧倒的な差があると考えざるを得ない。しかも、アンケート調査でなくパネル調査、つまり測定の結果だ。
私自身も災害などが起きた時に、デマや誤・偽情報について調べることがあるが、誤・偽情報が関連して拡散している情報の上位に来ることは滅多にない。むしろ、誤・偽情報に注意という情報発信の方がはるかに多いことは珍しくない。しかし、多くのメディアはそれではおもしろくないので、デマが拡散しているという記事を掲載しがちだ。
テレビや新聞など既存のメディアは情報エコシステムの中で重要な役割を持っているものの、透明性は少なく、その編集方針は監査されることはない。その結果、プリンストン大学の研究で明らかになったような偏向は生じている。そのレポートにも書いてあったが、誤・偽情報よりもそっちの方が影響力が大きく問題なはずなのである。
ESOC Working Paper #27: Media Reporting on International Affairs( https://esoc.princeton.edu/WP27 )
プリンストン大学ESOCによるメディアの系統的偏向の調査結果( https://editor.note.com/notes/n6ec248e524ca/edit/ )
ちなみに「ESOC Working Paper #27: Media Reporting on International Affairs」については拙著『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)の中で紹介している。
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