疾病地政学の脅威
ちょっと極端なこれからの話しを備忘録として書いておく。こうした極端な予想(憶測?妄想?)を紹介するウェビナーを2025年1月1日正午から行う予定です。ご興味ある方はどうぞ、無料です。
疾病地政学とは疾病に関する地政学である。疾病は文化、政治、交通・運輸、軍事、教育、制度(医療へのアクセス)、気候、地理などに影響を受けるものであり、地政学的であり、文化人類学的でもある。全領域の戦いにおいて、疾病はきわめて重要な要素となるものの、「武器」としてはほとんど認識されてこなかった。政治の分断が健康に害をおよぼすという論文という論文が発表されるなど、じょじょに認識されるようになってきている。
政治の分断が健康に害をおよぼすという論文、 https://note.com/ichi_twnovel/n/n547e389abead
病原論と病因論
病気の原因には病原論と病因論がある。病原論は直接的に病気を引き起こすウイルスなどを指し、病因論は過去の行動など間接的なものを指す。我々が通常認識しているのは病原論であるが、現実の疾病の流行や抑制を考えると病因論も重要である。疾病地政学は病因に注目し、国家間の争いにおいて病因によって疾病を増加、減少させる方法を研究する。たとえば、コロナ禍で、反ワクチンなどの陰謀論を流布させることは相手国の病因となる。
制御不能だが、最強かつ否認可能性の高い気候変動
気候変動は資源はもとより、地域を水没させることや、深刻な災害を引き起こすこともある。また、農作物や水産資源、酪農などに甚大な影響を与え、移民の増大にもつながる。そして、これらは病因と病原にもなる。気候変動の直接的な影響を受ける多くの国はグローバルサウスにあるので、気候変動の進展にともない、グローバルサウスの国々は不安定になり、権威主義化が進む可能性が高くなる。同時に、新しいウイルスなどによるパンデミックも発生しやすくなる。
コロナに対する各国の対応がバラバラであったことを考えると、パンデミックは政治的なイベントであり、疾病地政学がもっとも活用できる場面となる。反ワクチンや陰謀論など政治的な側面、医薬品などの経済あるいは交通・運輸の側面、医療リテラシーなど教育の側面などを利用して、相手国のパンデミックを悪化させることができる。疾病地政学という領域はまだ存在しないため、この領域の特許を押さえることで効果的な対策を封じることもできる。
サイバー攻撃と連動しやすい
さらに疾病地政学においてサイバー攻撃はもっとも効果的な攻撃となる。医療機関、交通・運輸機関などを機能不全にすることができる。ランサムウェアが医療機関をターゲットにするのは疾病地政学的な効果もある。
Commission on Security and Cooperation in Europe(CSCE)の「SPOTLIGHT ON THE SHADOW WAR: INSIDE RUSSIA’S ATTACKS ON NATO TERRITORY」( https://inods.co.jp/news/4794/ )によると、ロシアがNATO加盟国に仕掛けているハイブリッド攻撃で2番目に多いのは重要インフラへのサイバー攻撃であり、その多くは医療機関をターゲットとしていた。
また、こうした作戦の成功可能性を高める要因として、分断や格差が広がっていることも重要(分断や格差は医療アクセスを制限するため)で、多くのグローバルノースの国々はこの条件をみたしている。分断や格差によって、多くの人々が医療にアクセスできなくなったり、適切な情報や支援を受けることができなくなったりする。そして、反ワクチンや陰謀論に結びつくこともある。
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