【エッセイ】思わぬ来訪者
夜勤の仕事終わりに、地元に帰る予定だったので、仮眠をとらずに準備をしていました。
仕事が大変だったから帰ったらゆっくり休もうとか、久しぶりの連休だからすごいテンション上がるわー、なんて考えていました。
荷物をまとめて、お風呂に入り、買ってきたおにぎりを食べて、出発にむけてのスタンバイが出来た頃、ベランダを見ると、カサカサと動く物体が見えました。
「ま、まさか…Gなのか⁈」
恐る恐る見ると、Gではなかったものの、2〜3㎝ほどの、まあまあ中型(私にとって)な生き物がいました。
黒っぽい、羽がありそうななさそうな…足が何本かあって、とりあえず好きではない苦手な物体が、ベランダにいたのです。
「そのうちいなくなるか」
そう思って、出かける支度を継続しました。
あと5分くらいで家を出ないと、予定していた電車に間に合わない、若干焦りも出てきていました。
泊まりがけの時は、雨戸を閉めていきます。すべての準備が整ったら行う、シメみたいな作業です。
よし、雨戸を閉めて行くか…っ
ちょ、ちょ、ちょ…ま、まて、
あの物体、まだベランダにいるし。
え、動いてない?
え、こっち見てる?私の動きを観察してる?
やめろ、こっちを見るんじゃない。
その、うにょうにょした肢体を、優雅に動かすな。
じっと、物体と私の攻防戦が繰り広げる中、奴が動いた…!
よし!そのまま動いて視界から消えてくれ。
なんなら、存在しない記憶として、そんな現実はなかったと思わせてくれ。
すると、先程までいた場所から黒い物体は姿を消しました。
はぁー、良かった。
これで雨戸が閉め…れない!
なんと、窓の端っこのほうで上昇しているではありませんか…!
なーんで、登っているのかなぁ⁈
窓に近づかれたら、雨戸閉めれないでしょーよ!
物体が、部屋の中に入ってきてでもしたら…
私の阿鼻叫喚が響き渡る。
やだやだやだ、それだけは絶対嫌!
しばらくすると、窓のてっぺん辺りまで登り詰めた黒い物体。
そこから眺める景色は、どれほど美しいですか。
私は、緊張感走る空気を味わって動悸がします。
よく見たら、雨戸の外側に辿り着いておられたので、これなら雨戸が閉められる!
そっと窓を開けて、雨戸にそっと触れた瞬間、勢いよくガーッと下に下ろしました。
と同時に、黒い物体が羽ばたく瞬間をとらえて、
「ぅおおぉお⁈」
と腹の底から、地を這うような声が出てしまいました。
幸いにも、黒い物体は部屋に入ってはいなかったけれど、勢いよく閉めた際の衝撃で左手が負傷。
その後、予定していた電車は乗り遅れました。
予定外の来訪者に振り回された、寝不足で変なテンションになった普通の日の午後。