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『なぜフィクションか?』を読みました

『なぜフィクションか?―ごっこ遊びからバーチャルリアリティまで』(ジャン=マリー・シェフェール著、久保昭博訳、2019、慶應義塾大学出版会)という本に挑戦してみました。正直、自分には難しすぎて半分気絶しながらページをめくっていたのですが、時折「あれ……なんかこのページだけ急に面白いな。」となることもある一冊でした。

ヘッダー画像は、慶應義塾大学出版会の web サイトから書影を引用しました。
出典:慶應義塾大学出版会、『なぜフィクションか?』 、https://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766425758/ (2025年1月25日アクセス)


きっかけ

前に一冊読み終えた後、何かまたゲームの面白さの外堀を埋めるような本、特に競うこと(ludus)ではなく演じること(paidia)の楽しさにつながるような話題を読みたくなった。あと、せっかく「本」を読む習慣が芽生えてきたのだから、適当にネットで検索するのではなく、裏付けがあり引用されるような本を読もうと思った。

そこで、以前背伸びして買った『デジタルゲーム研究』(吉田寛、2023)の文献一覧をパラパラとめくり、日本語で読める、面白そうなタイトルを探した。そこで見つけたのが本書だ。副題の『ごっこ遊びからバーチャルリアリティまで』が決め手になったと言っていい。

本書について

ブロードバンド普及・第二次VRブームより前だからこその普遍的な視点

日本語訳版の本書は2019年発行だが、原著は1999年発行だ。

1999年といえば、映画では『ターミネーター2』( ジェームズ・キャメロン、1991)や『ジュラシック・パーク』(スティーヴン・スピルバーグ、1993)以降、本格的に3DCGが使われるようになり、『マトリックス』(ウォシャウスキー兄弟*、1999)と PlayStation 2(ソニー・コンピュータエンタテインメント、以降SCE*、2000)による DVD の爆発的な普及を目前に控えていた頃だ。
*当時

ゲームでも、『バーチャファイター』(セガ、1993)や PlayStation(SCE、1994)で、ポリゴンを使った三次元のバーチャル空間でプレイヤーが活動できるようになり、バーチャルリアリティ(以降 VR)が現実味を帯びてきた時期だ。

そして本書も、ララ・クロフトの話題から始まる。そう、ゲーム『トゥームレイダー』(Core Design、1996)の主人公だ。ただし、実際にはその後ゲームの話題はほとんど出ず、出たとしてもより一般に「デジタルフィクション」として扱われる。そのため、ゲームへの直接的な言及を期待して読むのはおすすめしない。

しかし決して時代遅れの的はずれな「デジタル批判」ではなく、むしろゲームや VR をフィクションの新たな表現手法として好意的かつ普遍的に捉えている。(話題を先取りするが、)デジタルの新しさを 「マルチメディア」 に見出したのは如何にも1990年代らしく古臭いと感じるかもしれないが、むしろ今では忘れがちな普遍的本質を突いているように思う。

恐らく、いまゲームや VR について考えようと思うと、インターネットという別の巨大テーマを無視できず議論が発散してしまったり、些細な技術的マイナーチェンジで話が終始してしまったりするのではなかろうか。

個人的にも、ゲームならではの魅力というのは高い没入感そのものであって、よく言われるような対戦ゲームの競技性やメタバースの社交性は既存の社会活動を適用とした個々の活用例でしかないと感じていた。それゆえ本書が、デジタルフィクションを マルチメディアによる高度な知覚の再現でモデル化されたもうひとつの「現実」への没入を実現する装置 と捉えていることに(それまでの読書が険しかったこともあり)思わず喜んでしまった。


話は逸れるが、つい先日デジタル・リマスターされた『コレクター・ユイ』(NHK、1999)も当時の子供たちにバーチャルリアリティを教育する役目を担っていたと思う。世代がバレそうだ。


読みにくい文章・訳者解説から読んだ方が良い

本書は、はっきり言って読みにくい。それは話題が難しいからではなく、文体構造の問題に思えてならない。やたら前置きが長かったり(「☓☓ではなく〇〇」の☓☓がやたら長い)、文中の補足で話の腰が折られたり(「―ところでこれは~なのだが―」みたいな)して、単純に文章としてまとまりが悪く要点がぼやける。これがフランス語原著の問題なのか、日本語訳の問題かはわからない。

このせいで、よく目が滑るし、何度も寝落ちした。だから、もしこれから読む方が居たら、まず巻末の「訳者解説」から読むことをおすすめする。かなり端折られるが、本書が読みづらいこと、どのような章構成か、そして最終的な結論について整理してある。

急に面白くなるページをいくつか

ところが、半分気絶しながら読んでいると、時々思い出したかのように面白い話をし始めるのが、困りものだ。正直忘れてしまった部分もありそうだが、いくつか面白かったところを列挙しておく。もしかしたら参考になるかもしれない。

ここから先は本書を読めばわかる内容と素人(ゲーム好き)の感想ですが、缶コーヒー2本くらいは飲んで書きましたので、もしご興味いただけましたら幸いです。

  • 第二章 ミメーシス―模倣する、装う、表彰する、認識する:2. ミメティスム(p. 58)

    • 生物の擬態からコンピュータシミュレーションまで、そもそも「似てるって何?」みたいな話がすごく広い視野で攫われていく。

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