
日本のエディンバラ
世界で一番大きな演劇祭は、スコットランドのエディンバラで行われる『エディンバラ・フェスティバル』。
その存在を知ったのは、舞台芸術学院に入った年。…何のタイミングで知ったのかは忘れてしまったけど。
そこでは演技もだけど、バレエもジャズダンスもとにかくいろいろやった。そして、座学も少しだけ。
その座学の延長で、早稲田大学にある演劇博物館に行ったのだけど、そこではいろんな劇団の展示があり、中でも『維新派』と言う劇団に目が行った。
2017年に解散してしまったが、大阪生まれの劇団で、とにかくスケールが大きい。スクラップビルドの劇団で野外で劇場を造り、上演。展示は、『《彼》と旅する二十世紀三部作』を中心に展示されていた。
その《彼》が小さなサイズであって、それでも普通の人よりも大きく、何なんだ!?と思い、帰ってからも調べ、何と約一ヶ月後に琵琶湖で公演をすることがわかった。
おもしろそうだと思うと、私は考えなしに動く所があり、仲間を募り、京都観光も兼ねて、0泊2日弾丸ツアーを企画し、観に行った。
高速バスで朝、京都に着き、そこから嵐山に行って、太秦も観に行って、電車で琵琶湖。維新派の『呼吸機械 〜《彼》と旅する二十世紀三部作』を鑑賞、終演後すぐ京都に戻り、高速バスで東京へ帰る。…むちゃくちゃな内容。なのに3人も付き合ってくれた。
旅の話もしたいけど、時間の都合上、公演に関してのみ書くことにする。
琵琶湖について、しばらく歩くと、デカいコロシアムのような、私にはそう見えた、ものが現れ、その前辺りに出店が2、3件あった。この出店も維新派の名物。串肉で食べたいなぁと一瞬思ったけど、かなりギリギリだったので、横を通り過ぎるのみ。
コロシアムに見えた会場へ。
入ると、野球場のスタンドのような客席。
正面には利のリノリュームの床、その先に琵琶湖。
なんかすごいものを観に来てしまった…とこの時点で思った。たぶん、他のみんなも思ってたに違いない、確認しなかったけど。
秋で夜風が冷たい客席はほぼ満席。
出演者の親御さんたちが会話してるのが聞こえたりで、ああ、そうだよな、観に来るよなって思ってたら、始まった。
映像でも見てたけど、みんな、白塗り。白服。
内容はナチスドイツ政権下の話で、メインの役はその当時を思わせる子どもが来ていた服や軍服。
セリフは、この時はあるようでなかった。
名前と、単語のみ。
大人の役は少しだけ話してたかな。ちょっと曖昧だけど、会話劇ではなく、ダンスとリズムのみで構成されているような独特な世界。
子どもの目線で描かれているから、ピュアな感性に触れる感じがする。
後、ライティングがその世界を鋭く切り取っている所も好き。
異空間、非日常。
これが演劇なんだなぁ…と思った。
観ているだけで、惹き込まれる。
そして、ここの劇団の主役はみんな。
役は付いてるけど、メインとかあるけど、そのシーンよりも群衆でのモーションがとてもキレイで圧倒される。難しいフリはないのだけど、緻密に計算されたバランスとそれを具現化する稽古量の賜物が舞台上に現れる。
単調なリズムに合わさる、人なのに、機械のような単調な動きは人の数分うねりとなって、空間が広がる感じで、生で観ると更に不思議な感じがする。
終盤、小雨が降ってきて、客席も寒かったけど、琵琶湖を背にした舞台上はもっと寒かったと思う、演者のみなさんが動きながら震えているのが見て取れた。
あの客席のお母さんたちはこの光景を何として観ているだろう…
それでも話は続く。
終盤、琵琶湖に突如として、月が現れる。
そして、巨人の《彼》も。
お話がもう10年以上前なので、DVDを見返さないと書けないのだけど、とにかくこのシーンで今、どこにいるのかわからなくなった。
琵琶湖に浮かぶ月が、まるで宇宙に浮かぶ月そのものに見えたから。
ああ、維新派がやっていることはエディンバラのそのものなのかなぁと…帰りの高速バスで一人思ったのを覚えている。
出店も、あの世界も何もかも日本では味わえないようなものだったから。
だから、エディンバラには行けてないのだけど、あの日から行った気になっていて、いつか本当のエディンバラにも行ってみたい。
維新派の日本の戦時中をモチーフにした『トワイライト』はこちらで今、観ることができます。
そして、早稲田大学演劇博物館では、なんと私が主宰するIccokaの作品が予約して閲覧鑑賞することができます。
演出は伸び代ありまくりですが、この『クロップドケーキ』という本は私が書いたものの中でも好きな作品です。
『クロップドケーキ』は、Amazon Kindleの読み放題対象ですので、ご興味あれば読んでみてください。
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