『教養としての建築入門』坂牛卓
無知にして存じ上げなかったけれど、著者の坂牛卓氏は現役の建築家。タイトル同様に派手さのない質実な文体。
サブタイトルに“見方、作り方、活かし方”とあり、建築を観る・体験する、建築を作る、建築物を活用する、というそれぞれの視点から、建築というものを考察した一冊。
帯のキャッチ「名建築はなぜ格別なのか」に、有名な名建築の魅力のプレゼンテーションのような内容を想像すると、本書の内容とはかなりズレた期待になってしまう。
工法についての細かな説明とか、個々の建築物についての微に入り細を穿つ考察などもこの本にはなくて、もう少し概念的に建築の本質的なものについて書かれている。
それをどう受け止めるかでこの本の評価は変わってきそう。
特に最後の「活かす」という視点からする建築の社会的な相についての考察が印象強くて、個人的にはとても楽しめた、参考になった。
社会的ということは政治的でもあるわけで、政治と建築についての関係なども面白かった。
建築史についても単なる流れの記述ではなくて、なぜ新しい様式が生まれてきたのかを考察しながら歴史の変化のうねりを捉える。
哲学なども参照しつつ、いくつも興味深い視点からの記述が続くのだけれど、新書ゆえ掘り下げはあまりできないのがもどかしいけれど、随所に参考文献を上げてくれているので、さらに先へのブックガイドとしても参照できそう。
これは中公新書らしい名著だと感じ入りました。