『続明暗』水村美苗

Amazonの書影はちくま文庫だけれど、新潮文庫で読みました。旧仮名遣いの奥泉光の『「吾輩は猫である」殺人事件』とは違って、『続明暗』は新潮版では新仮名遣いに改められている。親本のちくまでは旧仮名らしい。

未完で終わった『明暗』の続きを書くという野心作、それをデビュー作として上梓するというのもすごい。

文体は漱石を模倣しつつ、物語としては水村美苗の世界になっている。だから、漱石らしくない、という批判はすまい。

しかし読み手としては、どうしても漱石の『明暗』と引き比べてしまうし、読み手一人ひとりの中にある“『明暗』の続き”とのズレは、違和感を呼び起こさずにはおけない。

そういう問題に水村美苗は十分に自覚し、それでも書かずにはいられなかった。作家の業というしかない。

後に『本格小説』を書いた水村美苗なので、本作でも男と女の縺れた恋愛関係が全面に押し出されている。どうしょうもない男と、そんな男に惚れてしまった女、ラストは恋愛というものの深遠さを伺わせて印象深い。

しかしまぁ、文体の模倣ぶり、作品の世界観のオリジナリティ、どちらも奥泉光のほうに僕は惹かれる。

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