乙川優三郎『クニオ・バンプルーセン』
一人の編集者の半生に寄せて、日本文学の美しさを高らかに謳い上げた傑作。
磨きに磨いた文章、極限まで贅を削ぎ落とした言葉で紡がれる物語は驚くほど豊穣で、読みながら何度も涙し心打たれる。
いつもの乙川優三郎ワールド全開で、充実した読後感。
しかしながら…以下は、穿ちすぎだったなと後年笑い飛ばせることを願って記すけれど、作中に充ちる死の気配の濃厚さが、気にかかる。
新潮社の『波』に寄せた一文も、どうにも引っかかってしまう。
乙川さんの健康状態が何か脅かされていたりしないことを、切に祈る。
毎作ごとに到達点の高さを更新し続けているこの作家の、次作をジリジリとした思いで待つ。