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梨木香歩『からくりからくさ』
祖母が遺した古い家に女が四人、私たちは共同生活を始めた。糸を染め、機を織り、庭に生い茂る草が食卓にのる。静かな、けれどたしかな実感に満ちて重ねられてゆく日々。やさしく硬質な結界。だれかが孕む葛藤も、どこかでつながっている四人の思いも、すべてはこの結界と共にある。心を持つ不思議な人形「りかさん」を真ん中にして――。生命の連なりを支える絆を、深く心に伝える物語。
フォローしているnoterのしおりさんが、志村ふくみさんの展覧会鑑賞の記事で言及されていたのが、この作品を知ったきっかけでした。
民藝の流れにある志村ふくみさんなので、この小説も、華やかさはなくとも丁寧な暮らし、を描いたものなのかなと勝手に思い込んで読んでみようと手に取りました。
作品の冒頭しばらくは、そんな思い込みを裏切らない、ゆったりとした筆致で若い女性たちの暮らしが描かれていて、表紙のイラスト(早川司寿乃)のテイストにも導かれて、こちらも穏やかな気持ちで物語を味わっていたのですが…
読み終えてみると、何とも激しく荒々しく、強いパワーを放つ作品で圧倒されました。
極めて重層的かつ多面的な視点で組み上げられている構成、個人、恋人、夫婦、親子、家族、血統、民族、国家。人間の綾なすさまざまな共同性。それらを貫いて流れる魂の奥底の記憶。
「世界は一枚の織物」というコンセプトから産まれた作品だそうだけれど、その織物は、曼荼羅のように大きく複雑で、人間と世界の複雑さを、少しも単純化しないでいたいという作家の意志が滲むように思われる。
僕にとってはフェミニズム的なテーマがとても印象強かったけど、民俗学、民族学、宗教や国家論まで射程に入る視座は、読むものによっても、また読み返すたびに、最も強く輝くところが変わっていくんじゃないだろうか。