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芝木好子「ルーアンの木陰」「ヒースの丘」

『芝木好子名作選』の下巻巻末に収められた2つの短編は、老いた夫婦がヨーロッパを旅する物語。

「ルーアンの木陰」はモネが、「ヒースの丘」ではブロンテ姉妹が、物語を彩る。

短い短編ながら、充実した筆致で読まされる。名作選はこれ以外は全て長編(須崎パラダイスを連続長編と僕は思う)なので、最後に芝木好子は短編も巧かったのだなあと感心させられる。

死と芸術と、愛と失意と。人生なんてそんなもの、とも言えるし、それらだけが人生を彩る、とも思う。

死をそう遠くないところに感じながら生きる、作中の老夫婦の会話や振る舞いに、そろそろ自分を重ねてもおかしくはない年齢に僕も来てしまったが、彼らのような晩年を過ごせるかどうか?

芝木好子が『嵐が丘』を愛しているとはちょっと意外だった。辻邦生と水村美苗の往復書簡集『手紙、栞を添えて』で、水村の『嵐が丘』偏愛は強く印象に残っている。

柴木も水村も女性作家だから、というような短絡的発想はすまい、と思いつつ、今まで読みたいと思ったことのない『嵐が丘』を、いつか読んでみようかと思う。

こうして、本を読むたびに読みたい本は増えていって尽きることがなく、まだもう少し、死にとらわれるのは先延ばしにしておきたい。

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