『書物の心』福永武彦
福永武彦の随筆集シリーズ5巻目。タイトルにもあるように、書物や作家にまつわる文章を蒐めた一冊、しかしながら後記で説明(言い訳?)しているように、純粋に随筆として書かれたもの(Ⅰ章)は尠くて、一冊の本に纏めるために推薦文(Ⅱ章)や書評(Ⅲ章)が集められいる。
短いながらもその本の魅力を掬い取るために腐心した書評も福永の審美眼を感じさせて興味は尽きないが(「ここに挙げた書物はおおむね良書として私が推薦し得るものばかりである。私はその美点を認めないで書評を書いたことは一度もなかった」と後記にある)、やはりⅠ章の随筆の味わい深い文章が格別で、どちらかというと作品よりも作家その人に向けられた視線が、文人・作家の魅力的な個性を描いて読ませる。
福永の卒論のテーマはロートレアモンだったそうで、その頃の東大仏文科の消息を描いた回想記も非常に興味深いのだけれど、その中にさらりと「私は或る同人雑誌に『マルドロールの歌』の翻訳を連載していた」なんて文章を忍ばせていて、その訳は電子版福永武彦全集19巻に収録されている。https://amzn.asia/d/59oyQPm