大岡信『日本の詩歌 その骨組みと素肌』
萩原朔太郎『恋愛名歌集』と一緒に購入した、詩人による和歌(及び中世歌謡)論集。
子供の頃は毎日新聞で「折々の歌」を楽しみにしていたのに、何故か手が出ず、大岡信のまとまった本は初めて読む気がする。
パリでの講演原稿だそうで(講演はこのテクストを仏訳)、「聴衆が、議論好きで合理主義的思考に徹しているフランス人であることを、常に意識して」書いたというテクストは、極めて明晰で澱むところがない。
朔太郎の読解や和歌史の理解が極めて感性的感覚的なものであるのに対して、大岡は歴史的文化史的な視座を基点に据えた記述になっている。同じく詩人でありながら好対照なところが面白い。
どの章も面白く刺激的だけれども、特に4章「叙景の歌」は圧巻。叙景詩が単なる自然の情景を描いたものではなく、詠み手の心情を重ね合わせたところに日本の叙景詩の特徴がある。しかもその心情の主体は、詠み手自身とは重ならない、想像力によって立ち上げられた詩的現実を生きる主体であり、近代的レアリスムとは異なる文芸として再発見すべきである、という。まさに慧眼。
5章の『梁塵秘抄』『閑吟集』についての鑑賞も、単に字義を理解するだけではなく、詠み手の置かれた社会的環境を踏まえての読み込みの深みには、唸るしかない。
朔太郎『恋愛名歌集』を読んで、「和歌を知る上で必読の名著」と称揚しましたが、この大岡の著書も、全く同じ言葉で勧めたい。和歌を知る上で必読の名著である。