『小説新潮3月臨時増刊 アメリカ青春小説特集』
1989年に出た文芸誌。刊行当時に買ったけれど当時の僕の読書力でらなかなか読めず、そのうちに紛失してしまっていた。
今読んでみるとどれも面白くて、少しは小説を読む能力も発達しているのかもしれない。
小説では「ブルーミング」が一番良かったかな。抄訳とのことで、全部読むとまた印象は変わるかもだけれど。母親になった女性が、自分の少女時代の回想する物語。母親としての今と、娘としての過去との重なり具合もしくはズレ具合が、物語に膨らみをもたらしている。
『潮騒の少年』は後に単行本になった小説で、ゲイ小説としてはかなり先駆的な作品ではなかろうか。少年の性の目覚めという普遍的なテーマとしてケレン味なくストレートに描いていて、今読んでも違和感は少ない。
青山南と高橋源一郎の対談はすごく印象に残っていて、というのは高橋源一郎が初めて読んだ海外文学としてあげている集英社の世界文学全集が、我が家にもあったからだ。父のその蔵書は父が亡くなった今も本棚にある。少しずつ読んではいるが、すべてを読むのは難しいかな…
著名な文筆家たちの「アメリカ青春小説を一冊選んで下さい」というアンケート回答も面白い。あまり意外な回答はないけれども、安野光雅さんが『トム・ソーヤーの冒険』をあげているところなど、むしろ、なるほどと納得させられたりして。
その他、コラムも充実していて、“頭から尻尾まで”全部楽しく読んだ。
カーヴァーはすでに亡くなっていたけれど、ジェイ・マキナニーやブレット・イーストン・エリスが煌めいていた頃。まさに僕の青春時代。
表紙の「1989年、サリンジャー70歳。伝統は新しい世代に引き継がれた。」というコピーがリアリティを持っていた時代。
今になって振り返ってみると、サリンジャーを超える作品は結局出てこなかったと言えるかもしれないけれど。