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梨木香歩『裏庭』

昔、英国人一家の別荘だった、今では荒れ放題の洋館。高い塀で囲まれた洋館の庭は、近所の子供たちにとって絶好の遊び場だ。その庭に、苦すぎる想い出があり、塀の穴をくぐらなくなって久しい少女、照美は、ある出来事がきっかけとなって、洋館の秘密の「裏庭」へと入りこみ、声を聞いた――教えよう、君に、と。少女の孤独な魂は、こうして冒険の旅に出た。少女自身に出会う旅に。

『からくりからくさ』がとても良かったので、昔読んだ梨木さんの本を引っ張り出してきて再読しました。

初読時は『家守奇譚』を読んですごく面白かったので他の作品も読んでみようと思って手を伸ばしたのですが、あまりピンとこず、そのまま梨木さんの作品自体からも遠ざかってしまいました。

今回読み直してみて、やはりどうももう一つもどかしい感じを拭えないのは、僕がハイ・ファンタジーというジャンル自体を苦手としているからだと思います。

『家守奇譚』や『からくりからくさ』にも、幻想味というかファンタジー的なテイストはあるのだけれども、ハイ・ファンタジーではないので、さほど違和感なく読み進められたのだけれど…

『裏庭』は、少女が大人になる過程を描いた作品で、非常に重層的でよく練られた構成となっていて、優れた作品なのだなと感じます。

生きていくということは傷ついたり傷つけたり失ったり別れたりすることを積み重ねることで、主人公の女の子がそのことを受け入れていく過程が、ファンタジックな異世界冒険物語として展開されます。

それにくわえて、作中の年齢を重ねた大人たちの心の内側にも、大人になりきれない柔らかな部分があるということ、それが時には大人げない振る舞いになったり抑圧的な態度になってしまうことも、作者は容赦なく描き出します。

人間というものの、どうしようもない未熟さ。それから逃れられないとして、でも生きていくしかないことの肯定。

とても深いメッセージの込められた作品だと感じました。ハイ・ファンタジーが苦手でない読書人なら、読み返すたびに違う魅力を読み取ることもできる作品なのだろうと思います。

ただ、僕は苦手なジャンルなので、梨木香歩さんの作品群としては、非ハイ・ファンタジー的なものをもう少し読んでみようかと思います。

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