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#中村眞一郎

中村眞一郎『冬』

中村眞一郎『冬』

四部作を読み終えました。大雑把に言うと、老年に差し掛かった男が人生の歩みを回想するというお話。

しかしいくつかの点から、そのような要約とは掛け離れた作品になっている。それが中村眞一郎の試み、企みであり、この四部作を他の類似の構想に基づく作品たちとは隔てる、この作品独自の魅力でもある。

その一つは、実験的とも前衛的とも言える文章表現だ。丸括弧で、今書かれた地の文章へ作者自らが注を付す―もしくは、

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中村眞一郎『秋』

中村眞一郎『秋』

さっぱり分からなかった『夏』から一転、『秋』はかなり面白かった!

安部公房の評が強く共感を呼んだので全文引用しました。

“古生物学者”、“情事の化石”、“情事に関するユニークな博物誌”、まさに言い得て妙。

しかし本文を読んでない人にはピンとこないだろうなあ。読み終えてこの評を読むと安部の的確な表現に唸らされます。

『夏』で繰り広げられた、まったく情念も情愛も伴わないセックスとは違って、この

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中村眞一郎『夏』

中村眞一郎『夏』

と、引用を続けたのは、読み終えてこの小説とはいったいどんな話だったのだろうかと、途方に暮れているからである。未読の読者は、これらの文章からこの作品の輪郭を掴み取って欲しい。以下に記す文章は「全く分からなかった」という告白でしかない。

福永武彦が言う、“愛とエロスとを比較研究した独創的な小説”という表現が一番しっくり来るかなあ。

前半は、主人公が繰り広げる、幾人もの女性たちとの愛情なき性愛につい

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中村眞一郎『四季』

中村眞一郎『四季』

青春時代に時間を共有した二人の初老の男性が、思い出の地を訪れて過去を回想する。

しかし二人の記憶は少しずつ食い違い、重なることなく、それぞれの追想はそれぞれの記憶の中でのみ存在し続ける。

失われた時を探して歩く二人の歩幅のずれが、何とも不思議な不安定さを醸して、二人の現在の生すらもが、重ならないことに気づく。

生と死、記憶や思い出、一人ひとりが抱え直面せざるを得ない事態こそが、人生の実相なの

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