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三月の散歩

雨水か下水かが流れる水道。
高さがあるので雨の日には
壁から水が勢いよく流れ出しているのを見る。
このおどろおどろしい水道の側に生えている椿は
こんなに大きかったのか。
春になり
花がついているのを認めて
初めてそれ全体が椿であると知った。

風が柔らかくなったと思ったら
そこに人の家の香りが混じっていた。
誰かが前を歩いていたのかと
先の方へ目をやるが
誰もいない。
やがてすぐに濡れた布と柔軟剤の香りを臭覚し
そこらの家の洗濯物かと納得する。
しかしそれらしいものは見えない。

そしてその湿り気を帯びた
乾いた冬の終わりの空気が
胸を苦しくさせた。
なにか悲しい思い出でもあっただろうか。

この香りは小学生の記憶。

この公園は大学生のカケラ。

今日は曇りだった。

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