コロナ禍は、独裁者の"躍進"のチャンスになりそうだ
2020/4/23 英国経済誌The Economist「Autocrats see opportunity in disaster」より
世界中の人々の関心が新型コロナウィルスに向き、”守る”ことが最優先事項になっています。これこそ、独裁者が長年夢見てきたシチュエーションに違いありません。
コロナ禍のいま、中国が南シナ海で係争中のサンゴ礁領域への圧力を強めています。また、香港では、民主主義者を逮捕したり、「一国二制度」の根本にある法律”香港特別行政区基本法”を無視するという行動にでています。
これらは、偶然だったのでしょうか?
もちろん、偶然とは考えにくい。
現在、世界中の独裁者(またはそれに近い強大なパワーを持つ人間)は、今のコロナ禍を”またとないチャンス”と捉えています。何故なら、大衆は"それどころ"ではないからです。
香港に対する中国の行動は、その中でも常軌を逸しています。
1997年にイギリスが中国に、香港を返還してから、「一国二制度」のもと香港は運営されてきました。
多かれ少なかれ、香港人は「表現の自由」「集会の自由」そして法治国家であることの利点を享受してきたといえます。
外国企業は、香港が「安全」とみなしているからこそ、金融のハブとして重要な役割を果たしてきたのです。
しかし中国は、長年にわたり香港を手に入れることを画策してきました。
”香港特別行政区基本法”は、香港の国際関係を中国が介入することを禁じています。もちろん、この基本法には、中国の中央政府の出先機関である「中央政府駐香港連絡弁公室」も含まれている、とみなされてきました。
しかし、4月17日、中国はこれを突如否定したのです。つまりこの出先機関は、”基本法”の範疇には入らないと宣言しました。
これは中国が、香港の「一国二制度」を揺るがすための、大胆な一歩を踏み込んだことを示しています。
そしてこの現象は、中国に限ったことではありません。
世界中で、独裁者やその”予備軍”が虎視淡々とこのコロナ禍での混乱に乗じて、自身のパワーを強大化するチャンスを狙っています。
これまで84にものぼる”緊急法”が制定され、「政府に強大な権限を与える」動きが加速しています。
この中には、新型コロナと戦うために"止むを得ず"制定されて、無事にこの混乱が終わったときには、"元通りに廃止"する法律もあるかもしれません。
しかし大部分のケースでは、そうではないし、そうはならない、といえます。特に、民主主義がまともに育っていない国では、これが将来顕著に現れるかもしれません。
例えばハンガリーでは、首相のViktor Orbanが実質的に”独裁者”となる緊急法が制定されましたが、これは国会によってコントロールされているため、コロナ禍が終われば、元に戻る公算が高いでしょう。一方、トーゴやセルビアも同じように、政権トップが強大な権限を持っています。これらの国は将来も同じ体制が続いても不思議ではありません。
世界中で民衆は新型コロナに怯えています。独裁者予備軍の人間たちは、”民衆を危険から守るため”に、様々なルールを決めています。
大人数での集会は感染拡大の危険性があるため、禁止されています。最もリベラルな国でさえ、同様の措置をとっています。
インドやロシア、アフリカや南アメリカの一部の国で、政権を揺るがしてきた「大人数での抗議活動」を一切禁止することのできる”言い訳”を手に入れたことで、独裁者は喜んでいるかもしれません。
パンデミックによりボリビアでは選挙が延期され、ギニアでは反政府派の新聞発行が禁じられました。
トーゴでは選挙で投票する際に”特別なID”が必要になりました。これは前回の選挙に参加していなければ得られないものです。つまり現政権にとって明らかに有利な措置です。
新型コロナウィルスと戦うためには、「誰が感染し、その人がこれまで誰と接触したか」という情報が必要になります。
これは、平時では私たちが決して受け入れないほどのプライバシーを政府に簡単に差し出すことです。
韓国やスウェーデンなどの適切な抑止力のある監視体制では、この権力の濫用は起きないでしょう。しかし、中国やロシアではどうでしょうか。またカンボジアでは、今後”無制限”にこれらの監視を強化できる体制が整いました。
日本でも「トイレットペーパー騒動」が起こったように、誤った情報は混乱をもたらします。
しかし一方で、政権への真っ当な批判さえも”Fake News"として封じ込めてしまう国が多くあります。ジンバブエでは"Fake News"を流した人間を20年の禁固刑の処置にしました。イエメンやアラブ首長国連邦では”感染を拡大する”として、新聞紙の発行を禁止しました。
政権への監視機能が骨抜きにされてしまうと、”不透明性”が蔓延ります。
タイの首相は「今は、自由より、安全を優先しなければならない」と主張します。しかし彼の行っている施作の大体は、公衆の”安全”にとって悪い一手です。政権への監視機能が弱体化されると、客観的な証拠に基づいたウィルスへの対処がなされない、ということも起こり得るのです。
これから世界はどこへ向かうのでしょうか?
コロナウィルスは世界中の人々が一致団結して倒さなければならない一方で、政府のプロパガンダや秘密警察など、私たちが注意しなければならない問題も引き起こしています。
もちろん、独裁的な決定により適切なウィルス対応ができず、失墜していく政権も出てくるでしょう。
しかし、今のところは独裁者にとって”好機”が続いていることには変わりがないようです。
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今回の記事は少し長めでしたね。
もう少し短い記事のほうが読みやすくて良いですね。
オランダは今日、久々に曇りです。家でコーヒーでも飲みながらゆっくり過ごしたいと思います。
引き続きよろしくお願い致します。
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