手紙。蒼玉。旅への誘い。
実は、あなたのお誕生日の今日までずっと内緒にしていたことがあります。
お伝えできるこの時を、私はずっと楽しみに待っていました。
あれは去年の秋の終わり頃、月の隠れる長い夜、一緒に銀河鉄道の夜を読みましたね。(ろこさんと音読練習、「銀河鉄道の夜」音読 ゆきさんと。)
私たちの乗る汽車の窓からは月長石…ムーンストーンのように光るリンドウの花がずっと連なって咲いていました。
無数の青が幻想的に浮かび上がり、汽車から身を乗り出してあなたは
「ぼく、飛び下りて、あいつをとって、また飛び乗ってみせようか。」
と言っていましたね。その言葉にとても心が弾んだのを憶えています。
私の記憶では不思議なことに、線路を彩る青い光がまるで永遠のように続いているのです。思い出の中の一瞬が永遠のように感じられるのは、美しさや楽しさがぎゅっと大切に心に刻まれているからなのでしょうか。
そういえば、あなたのお誕生日の石は蒼玉ですね。
ブルースターサファイア、神の祝福を受けた石と呼ばれているそうです。
星を表すクロスする三本の光にはそれぞれ、運命、信頼、希望の意味があるとのこと。
こっくりとした深い蒼の中に浮かぶ星の煌めきは、夜空を閉じ込めた結晶でしょうか。それか悠久の時を圧縮した宇宙の欠片かも。
星空の好きな、あなたの心の中から生まれたような宝石ですね。まるであなた自身のような。
美しいものを、好きを真っ直ぐに放つ、あなたの輝きを思い出します。
唯一無二の、祝福された、魂そのもの、まばゆい光。
ほしめぐりのうたをまた一緒に歌いましょう。
・・・おっと、お話を戻しましょう。
私たちが一緒に本を読んだ後日のことです。私たちの音読を聞いてくださったセンメルンさんという方からご連絡がありました。
「銀河を鉄道でめぐる旅は大変よろしゅうございましたね。今度は宇宙と地球の間から、星を見上げるのはいかがですか。
私たちの飛行船は無限の空の孤島です。
特にお日さまが沈む頃、広大な蒼穹がゆっくりとバラ色に染まってゆく様子は圧巻です。色彩の空に心が溶け、一瞬一瞬が果てしない奇跡と気付くでしょう。
まるで愛そのもののような光の海に包まれながら、夕焼けの映るカクテルをお楽しみください。
やがて淡い暝色の中に、波のベールから透けるようきらきらと星たちが浮かび上がってくるのです。
空の旅もまた素敵ですよ。ぜひお二人をご招待させてください。」
と、飛行船クルーズのチケットを譲ってくださいました。
雲の島から島へと渡る飛行船で、どうやら招待状を持つ人だけ、特別な日より乗船可能だそうです。
急なお誘いで申し訳ないのですが、星や鳥や空の好きなあなたならきっと喜んで来てくださるだろうと思っている次第です。
待ち合わせ場所は前回と同じ夢のはざま、出航時刻は夜のしじまです。
今夜眠る前にチケットを枕の下に入れておくのを忘れないでくださいね。
持ち物についてですが、クルーズの初めの方に寄港する島で、衣服などの必要なものは揃えられそうです。その後も、雲シルクが特産の島や、雲羊のいる牧場の島にも停泊するようです。
私は軽くてふわふわの雲羊のニットセーターを入手しようと目論んでいます。
ああ、最高級の雷雲石鹸で全身を洗い、着心地の良いふわふわ雲羊毛ニットに包まれて、飛行船の展望室のカフェバーでうっとりするようなスカイビューの中、あなたと好きに語らいながら、夕焼けフロートカクテルを飲みたい。
...…ゴホン。今の連続である人生において、その時のタイミングで“必要なもの”はもちろん大切です。
でもだがしかし、“ふさわしいもの”について、時たま考えることがあります。
ふさわしいもの。内から眺めるとそれは表面からは見えない、もっと本質の輝きのようにも思えませんか。
実は私はこの旅で、あなたとそのものとの出会いを予感しています。
だって特別な夜ですから。あなたが汽車から身を乗り出して、月長石の青い光を取ろうと試みたあの時よりも、心はずっと星に近いですから。
星は自らあなたの元へ訪れることと思います。
いいえ、もう在るのでしょう。
その星の名はもうご存じの、深い蒼の底に輝く、神の祝福を受けた星。
どんな旅を望みますか。どんなあなたを望みますか。三本の光は今ここに。
さあ生まれたての新しいあなたと冒険に出かけましょう。
果てしない天空へ、飛び立つ準備はいいですか。
それでは続きはまた今夜。のちほど飛空船にてお会いしましょう。
愛をこめて。
ゆきより