Activism/M&A Weekly Roundup (2023年7月10日週)
過去に遡ってツイートを確認するのが大変になってきました。
そこで、備忘もかねて、当アカウントで紹介したアクティビズムやM&Aに関する話題、論文、インサイトなどを週次で纏めていければと思っています。
余程多忙でない限り毎週投稿する予定(たぶん)。
M&A
ニデック、TAKISAWAに「同意なき買収」提案 (7月13日)
工作機械事業の強化を進めるニデックが、TAKISAWA(旧・滝澤鉄工所)にTOBによる「同意なき買収」を提案。
TAKISAWAは21年6月の定時株主総会で買収防衛策を導入しており、同防衛策の手続きに従った買収提案。一般の上場企業による、買収防衛策導入企業への正面から、かつ、公開での買収提案は珍しく、経産省が策定を進める「企業買収における行動指針(案)」がパブコメ期間ということもあって耳目を集めている。
当アカウントではニデックが公開した「意向表明書」に注目。
「同意なき買収」が日常茶飯事の米国では、意向表明書が開示される例も多いが、日本で開示されることは殆どなく、M&A実務に関心ある方々には参考になると思う。
意向表明書は元々TAKISAWAの買収防衛策上、提出が要請されている書面で、記載事項も事細かに定められている。
ニデックの意向表明書はそうした記載事項を押さえつつ、TAKISAWAの株価の不振や経営課題を指摘し、ニデックによる買収の意義やシナジーを説明する、基本に忠実な構成となっている。
文言は丁寧だが、業績の伸び悩みや市場評価の低さ、現中計達成への疑義など、言っていることはアクティビストとあまり変わらない、ともいえる。
さらに、補足資料のスライドでは、同社の課題とシナジーによるその解決を対照させて説明している。
尤も、こうした形式の意向表明書は、それが公開されることを前提としているからこそ詳細な内容になっているのであり、友好的かつ非公開で提出される意向表明書の記載ぶりは、実務上、よりシンプルなものが多い点には留意が必要だ。
TAKISAWAが提案に反対して独立維持を主張するには、この意向表明書のロジックに反駁し、独力で提案価格以上の株価を目指すことを宣言せざるを得ないことになる。
買収防衛策上の次のステップは10営業日以内の必要情報リストのニデックへの交付。
今後も目が離せない。
Sources
株式会社 TAKISAWA(証券コード:6121)に対する公開買付けの開始予定に関するお知らせ
アクティビズム
AVI、2023年第2四半期のクオータリー・アップデートを公表
今年6月の総会で増配等3議案が可決となったNCHDへの株主提案について総括。
特別決議を要する、剰余金配当に関する定款変更議案の可決を稀有な成果と評価している。
一方、会社側が最大の抵抗を示していた社外取追加選任や戦略委設置議案が否決となったことについては、反対票を投じたMIRI Capitalを暗に批判。
根拠なき共同協調行為の主張や個人名への言及を行ったなどとして会社側の対応も批判している。
NCHD以外のトピックとしては、日鉄ソリューションズ、パピレス、フジテックのイグジットや、タクマとの対話開始など。
Source
AVI Japan Opportunity Trust - Quarterly Update (Q2-2023)
ストラテジックキャピタル、「企業買収における行動指針(案)」に対する意見を公表(7月12日)
8月6日までパブリックコメントを募集している経産省の「企業買収における行動指針(案)」に関し、ストラテジックキャピタルが自社サイトで提出したパブリックコメントを公表。
指針そのものというよりも、文言や用語に関する比較的細かい指摘だが、投資先とのエンゲージメントで得た実感が込もっているように見える。
とりわけ、
『日本企業の経営者が「中長期的な企業価値」の用語を用いる場合、「今はやらない」等と理解せざるを得ないことが往々にしてある』
との指摘に、耳の痛い思いの経営者も少なくないのではないか。
ストラテジックキャピタル、日証金への日銀天下りに関し、衆参財務金融委員会への送付書面を公表(7月11日)
戦いの場は総会から国会へ、というべきか。
衆参両院の財務金融委員会に対して、日証金への日銀からの天下りを糾弾する書面を送付。
日証金の歴代社長や常務が日銀からの天下りであることを示す資料や、コーポレートガバナンス改革等の観点から見た懸念、日銀ETF運用機関の議決権行使での忖度の疑念などについても言及している。
ストラテジックの書面によると、本件に関しては、4月に衆院内閣委員会で立民の本庄議員も採り上げている模様。
ダルトン、投資先へのフォローアップレターを公表(7月12日)
昨年12月に全投資先に送付した「適切な資本配分」「利益共有の強化」「取締役会の独立性と多様性」を提案するレターのフォローアップとの位置付けで、投資先へフォローアップレターを送付。
23年の総会シーズンを終え、対話した投資先の半数以上がなんらかの施策を実行したことを評価しつつ、投資先に対して1年後に期待する姿を記載している。
適切な資本配分:最適資本構成、キャピタルアロケーション、KPI/KGIの開示、政策保有株縮減等
利益共有の強化:取締役による株式保有(固定報酬の3-5倍)
多様性と独立性の高い取締役会:社外取過半数、多様性向上
論文、インサイト
取締役会に多様性のある会社は、なぜアクティビストに狙われるのか?
「多様性ある取締役会をもつ会社の方がアクティビストに狙われる確率が3~4倍になる」とする米国の実証研究が発表された。
米国の状況は、多様性を推進する日本の未来の姿かもしれないので、少し紹介したい。
多様性を推進する国やアセットオーナーにとっての「不都合な真実」も示しうる研究だ。
研究対象は、2009~2018年にアクティビズムの対象となったS&Pコンポジット1500企業(253社)。 取締役会の人種、性別、国籍の多様性の高さと、ガバナンスや業績に関する課題の度合いを指数化して分析。
ガバナンスに課題を抱える企業のうち取締役会の多様性の低い企業がアクティビズムの対象となる確率が1.7%に対し、多様性の高い企業では5.0%。
同様に、業績に課題を抱える企業では、多様性の低い企業が1.3%に対し、多様性の高い企業が5.1%との結果。 想像とは逆の結果といえるだろう。
このような結果の背景として、論文は以下を指摘する。
取締役会の多様性が高いほど迅速な意思決定がしづらくなる
取締役会の団結力が弱くなり、アクティビストが一部の取締役と手を結びやすくなる
そして、この研究結果を正とするならば、
多様性を推進するアセットオーナーはアクティビストファンドへの投資を再考すべきかもしれない
国も多様性に積極的な企業をアクティビストから守る一定の措置を講じる必要があるかもしれない
と結んでいる。
日本は多様性が発展途上な故か、現場感覚としては、多様性ある取締役会の方が意思決定が遅いとか、団結力が低いという印象はあまりない。
しかし、政府の施策やグローバル化の進展により、日本の取締役会が今後一層多様化することは疑いない。 こうした不都合な真実に直面する日も、そう遠い未来ではないかもしれない。
どう読み解くか?「企業買収における行動指針(案)」
柴田堅太郎先生(@shibaken_law)による解説。
指針の位置付けや、押さえておくべき主要論点につき、丁寧な解説がなされた力作だ。
「なかなか指針を読む時間がない」「指針を読んでも今ひとつ頭に入ってこない」という方にオススメ。
「研究会で何が議論され、どこに着地したのか」が論点ごとに纏めてあるため、指針や議事録を一通り追いかけていた方々にとっても、より深い理解に繋がるはずだ。
なお、中央大学の大杉謙一先生による指針案の解説も、来月ごろ雑誌掲載される予定とのこと。
その他(新聞記事等)
ビジネス・ラウンドテーブル、議決権行使助言会社の規制強化を求める(7月12日)
米国有数の財界ロビイング団体のBusiness Roundtable。
「ステークホルダー資本主義」が一躍注目を集めるきっかけとなった声明(下記)を19年に出したのも記憶に新しいが、議決権行使助言会社の規制強化を改めて求めている。
7月13日に実施された、議決権行使助言会社やSECへの規制・監督強化をめぐる米下院金融サービス委員会の公聴会を歓迎するとの声明を発表。
『一部の助言会社が不完全で誤解を生む情報を株主に提供』
『同団体に属するCEOの95%が助言会社のレポートに事実誤認を発見』
などとして、その影響力の大きさに比して、議決権行使助言会社の監督や説明責任が不十分と批判。
矛先は、トランプ政権下の20年に導入された助言会社(ISSとGlass Lewis)への規制を事実上撤廃したSECのゲンスラー委員長にも向けられ、金融サービス委が「重要な監督」を行うことを歓迎するとしている。
一方、議決権行使助言会社のISSも公聴会に関して声明を発表。
ISSは投資顧問会社として既に規制に服している
発行体が主張する「事実誤認」の殆どは見解対立か重要でない事項
顧客である機関投資家から規制強化の要望はほぼ皆無
などと、規制強化に真っ向から反対姿勢を示している。
日本でも今年の総会シーズンは助言会社のレポートへの反論を公表する企業が目立った印象。事実誤認を指摘している例も散見された。
巨視的にはESGも含めた経済政策をめぐる民主党と共和党の対立の一部でもあるが、今後の動向は助言会社の行動に影響を与える可能性も高く、注目だ。
自社株活用が占う成長 報酬型や提携、株価上昇も(日経)(7月15日)
株式報酬や提携による自己株処分を必要以上に推している記事に見える。還元手段として自社株買いを位置付けるならば、消却しなければ全く意味がない。
早大の宮島先生によると、01〜18年に取得された自社株のうち消却に回ったのは4割弱。
6割もの自社株が残り続けるという実態は、上場企業の経営陣のファイナンスへの理解の乏しさを物語るようだ。
自社株処分と新株発行はエコノミクスとしては同じで、手続的にも大して変わらない。 自己株の保有目的に将来のM&Aを挙げる会社もあるが、一度消却して新株で対応すれば良いだけだ。
「発行済株式の一定割合以上の自己株は消却する」との方針を示す企業も増えているが、少なくともこうした規律は必要だろう。
投資家が期待しているのは自己株処分による提携ではなく、消却による希薄化懸念の払拭。
その意味で少しミスリーディングな記事にも見えてしまう。
株高で東京がファンドマネージャー採用の草刈り場に(ロイター)(7月14日)
相次ぐ海外ヘッジファンドの東京オフィス開設で、特にロングショート戦略、マクロ戦略のPMやアナリストが争奪戦
オアシスも東京で積極採用
チームごと引き抜く動きも
台中関係の懸念で中国から日本への資金リバランス図る動きも背景に
IRは自社株の営業だ(日経)(7月13日)
まさにそう思う。
が、いくら営業マンや営業戦略が優れていたとしても、商品に魅力がなければ売れない。
商品としての自社株の魅力とは何か。それは実に多様だ。
成長性のこともあれば、業績や配当の安定性のこともある。あるいはニッチな技術や、業界内での特有のポジションのこともある。
魅力の中身によってどのような投資家が自社を選好するかが決まってくる。 そして、その魅力の中身を決めるのが経営戦略そのものだ。
IRが上手く行かないとか、自社が割安だとか、嘆いている会社に限って、経営陣のIRに対するコミットメントが低かったり、IRと経営戦略との紐付けができていないことが多い。
株主の声を踏まえた経営戦略や投資家に訴求する成長ストーリーの策定といったいわば「商品開発」が出来ていないのだ。 信じがたいことに、こうした「商品開発」をも、IRや企画など現場に丸投げしてしまう経営陣を目することがある。
株式市場は人気投票だ。
経営陣自らが資本市場と向き合い、投資家の声を真摯に受け止め、自社の魅力や夢を大いに語る。 こうした取組みをせずして、本気で株を売り込んでいる他社に勝てる訳などないのだ。
「レガシー産業」脱皮なるか 化学や繊維、PBR改善へ事業転換急ぐ(日経)(7月11日)
化学、繊維、鉄鋼などレガシー産業の株価が、東証PBR1倍要請後も伸び悩んでいるとの記事。
現場感覚での所感を少しだけ。
レガシー産業の経営陣と対話していると、彼らはこのようなことなど百も承知だ。 なかなか変われないのには理由がある。
長い伝統が故の重いB/Sや過剰資本。事業転換の足枷になる旧弊や社内の力学。 成長事業や新規事業への過少投資。
ただ、これらは現経営陣だけの責任ではなく、歴代経営陣が安定事業に胡座をかき、資本効率性や探索を軽視してきたツケでもある。
同情を禁じ得ない部分もあるが、割り切って前を向いて対応しようとしている経営者が増えてきた印象だ。
こうした企業は、通常のバリュー投資家の投資対象になりづらい分、アクティビストに狙われやすい。
改革への障壁が旧弊や社内力学ならば、アクティビストや株主の声を外圧として戦略的に利用しない手はない。 現場では、そんなメッセージを込めながらお話しをしているつもりだ。