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〈ケアデザインサミット2023〉第二部くらしとテクノロジー―ギフモ 水野時枝さん

2月25日に開催された「いばふく ケアデザインサミット2023」。
福祉に従事する方を対象に、特別な「出会い」を提供し、多角的に福祉を捉えられる機会と実際の現場で活かせる知識や技術を提供するサミットです。
「あ、そう」の転換! ケアにひらめきを!
というキャッチコピーがつき、介護福祉の12名のスペシャリストが登壇。無関心が関心に変わる出会いと対話を体感できる講座が開かれました。

このイベントに、取材チームとして参加してもらった執筆家の山本梓さんに、レポートをお願いしました。すると、「感動しすぎたので登壇した12名すべての方を紹介します」という言葉が……! たしかに、持ち時間一人15分はもったいないくらいでしたね。福祉を外側から見た、山本さんならではの目線で自由に記事を書いてもらいました。
ぜひ、お楽しみください。


先日、とある介護施設の栄養士さんたちへの取材をした。
特別養護老人ホームやケアハウス(高齢の方々のためのサポート付きシェアハウス、なんて受け止めている)の食を任されている人たちに、仕事について聞いたのだ。

国家資格の職種である栄養士。専門用語が飛び交い、しばしとまどった記憶がある。話を聞いていく中で、印象に残っているのが、「ミキサー食」とか「きざみ食」と言われるものだ。

――年齢が上がるにつれ、嚥下(えんげ)、つまり飲み込みの力が弱くなっている方には、「ミキサー食」や食材をムース状に固めた「ソフト食」、「きざみ食」などで対応しています――

飲み込む力の具合によって、食材をすべてミキサーにかけたり、きざんだりして提供しているという。即ち、これが「介護食」といわれるものだ。
たとえば、とんかつなら、とんかつに出汁とソースを入れてミキサーにかけるらしい。水を入れたほうがミキサーは回るが、それだと味も栄養も落ちてしまうためなるべく入れないようにしている、という工夫まで聞いた。
通常のメニューをつくったうえでの対応。大変な苦労と努力があるようだ。

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ところかわって、「ケアデザインサミット2023」が行われている、ありが分校。
お昼休みに、隣に座る方からお裾分けされた唐揚げをなんとなしに口にする(もちろん御礼を言ってから)。
「……やわらか!」
見た目は唐揚げなのに、舌と上あごですりつぶせるくらいのやわらかさなのだ。

この正体は、水野時枝さんが持ってきた「デリソフター」。料理(市販のお惣菜や家庭の手料理)のカタチはそのままに、やわらかくする調理家電だ。


驚きの経歴の持ち主である水野さん(ご本人は講座でまったく触れていなかったのですが、あとで調べて驚いたので、ご紹介させてください)、家電大手のパナソニックの工場勤務をしていたという。商品としての合否判定などをする品質管理を長く担当していて、家電の製造は未経験だという。
社内のビジネスプランコンテストでプレゼン、44本のアイデアのうち5本が「今後も継続して進めるべきもの」とされ、デリソフターも選ばれた。
そうして、2017年、アメリカ・テキサス州で行われている起業家の登竜門といわれる展示会「サウス・バイ・サウスウェスト(SXSW)」に参加するため、現地へ飛んだ。

「全世界のみなさんに見ていただきました。食は世界共通の楽しみごと。たくさんの反響をいただいて帰ってくることができました」

パナソニックでもその功績は認められ、水野さんは2019年ギフモを創業(会社をつくっていただきました、と控えめな表現をしていましたが)。
同年4月にはデリソフターを商品化した。

約4年かかったという開発の裏には、ともにプランをつくった事業パートナー・小川恵さんの介護の経験も大きいという。
小川さんは母上と一緒に、父上を介護していた。相次ぐ病の末、肺炎になった小川さんの父上。飲み込む力が弱くなり、食事はペースト状の介護食が中心になった。
お肉や餃子が好きだったというお父上は、食事の度に「なぜペットのエサのようなものを食べないといけないんだ」と怒ったという。好きなものが食べられないせいもあったのか、どんどん衰えていったそうだ。

一方の水野さんは、2003年に長寿世界一(当時)の116歳で亡くなった鹿児島市の本郷かまとさんの孫だという(これまたびっくり!)。
水野さんが取材に答えている文を一部引用します。

――「おばあちゃんは、噛む力と飲み込む力は強く、寝たままでも家族みんなで同じものを食べていました。それぞれの家庭にある味で人生の最後を迎えられるのはとても幸せなことだと思った」とふり返る――。

毎日新聞(2017/3/11)より

「小川の経験と私自身の生まれた環境から、デリソフターのプランづくりがはじまりました」

嚥下障害や飲み込む力が弱くなっても、まわりと同じものを食べられることでその人の尊厳は保たれるという一面は、たしかにあるかもしれない。

デリソフターを使ってみよう!


デリソフターの使い方は至って簡単。

① 食事を用意する(家庭の味でも、お惣菜でも、お弁当でも、デリバリーの品でも……なんでもOK!)
② 専用の「デリカッター」で食材の繊維を断ち切る
③ デリソフターの庫内に食事を入れる
④ 200ccのお水を入れる
⑤ 調理モード(1〜5)で調理開始!
※それぞれのモードは調理時間が異なる

「デリソフターを使ったお食事をされる方の対象は、さまざま。が、私たちは嚥下3・4(※)とされている方々に使っていただきたいと思っています。やわらかいものなら食べられる飲み込みの力がある方。けれども、さまざまな事情できざみ食やミキサー食を出されている方々に、食の楽しみを感じていただきたいからです」

※嚥下3・4……嚥下ピラミッドにおける「レベル3〜4」と診断された方のこと。数が上がるにつれ、嚥下困難となる。

高齢者だけではなく、嚥下障害をもつ子どもたちにも役立っているとのこと。

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「食、味には、それぞれの家庭料理の歴史と家族の味がある。
その安心、安全な家庭料理を食べ続ける喜びを叶えたいんです」
水野さんの言葉だ。

先日取材した栄養士さんたちにも、この言葉も含めてデリソフターのこと、教えてあげよう。


▼ギフモ・デリソフター
https://gifmo.co.jp/delisofter/


text & photo by Azusa Yamamoto


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