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UC Berkeley Business Schoolからの手紙⑫(インセンティブの原則)

今回は「インセンティブ」について。報酬制度全般の事は前回のブログを是非ご覧ください。

インセンティブというと、私たちはお金(ボーナス)をイメージするかもしれませんが、どんな意味があるのかご存じでしょうか

インセンティヴ
インセンティブ(英語: incentive)とは、社会活動(その大半は業務)をある行動に向かわせるための理由として、最終的には金銭面で有利になるような方向で行われる方策を指す。日本語では「誘因」とも訳される。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ビジネススクールで学ぶ「インセンティブ」というものは、「金銭的なメリットを掲示することによって人を誘引するもの」です。日本では「手当」がインセンティブに相当します。営業手当、家族手当、育児手当、住宅手当、役職手当、スキル手当、様々な固定給付型の手当てがありますね(一方で、アメリカには固定型の手当てはあまり存在しません)。

A社様・・・
「若手エース社員の営業手当(営業インセンティブ)の金額が青天井になってしまい、管理職よりも給料が高くなってしまって離職してしまった」

B社様・・・
「本当のところはわからないが、家族都合・育児都合を理由に退社する社員が勃発している」

C社様・・・
「大型の顧客からオーダーされている仕事は、自社の2~3人しか対応できない(社員が必要なスキルを獲得してくれない)。結局特定の人に依存せざる以外になく、ビジネスチャンスを逃している」

上記のようなことは私が日々お客様から聞く内容ですが、インセンティブに絡んでいます。簡単に言えば「飴と鞭」の飴なのです。

一方で、飴と鞭に頼らずとも「社員がもっと自律的に学び、自走できるような環境を創っていきたい」
という理想を多くの経営者・HR責任者の方から聞きます。この理想に対してインセンティブという報酬制度における「+α」が必要になってくるのです。

では、どのようにデザインしていくべきなのか、ヒントとなるようなことを書いてまいりたいと思います。

1.インセンティブ(誘因)の効果

まず、「人がXXをやりたいと思うためにはどんな状況・前提が必要なのか」を考えていく必要があります。

例えば、仕事においてあなたを動機づけるもの(よしやろう!と思う原因)は以下の内、どれでしょうか?

ア:約束された給料(基本給の総額)
イ:約束されていない追加的な給料(ボーナス)
ウ:社会的ステータス(役職など)
エ:尊敬できる上司・同僚・部下との関係性
オ:設定された目標
カ:自分が思い描いた夢

よーく考えてみると、「やりたい気持ちを促進するもの」と「辞めたい気持ちを軽減するもの」で分かれたのではないでしょうか。これはハーズバーグの二要因理論でも良く説明されているものです。

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上記の通り、上段にある内的要因的な要素と下段にある環境要因的な要素では、夫々を整備する(より良くする)ことによる効果が異なります。

ちなみに、これに関係するものの理論として、マクレガーのX理論Y理論(Mcgregor’s motivational theory X theory Y)というものも覚えておくべきものです。

図2

この理論は人間はどちらか一つ(白黒)のタイプだと定めているように見えますが、もちろんそうではないはずで、やらないといけないと感じている時もあれば、やりたいと感じている時が誰にだってあるということをHRが理解しておくことが重要であると私は思います。

そして、金銭的インセンティブ以外では「Nudge」という考え方も知っておきたい理論です。

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人間の脳は、大きく2つの機能があり、反射的に動く脳と思慮的に動く脳があります。この組み合わせによって人間は行動をしたり、行動を抑制したりするのです。

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上記の灰皿箱は一例ですが、街を汚さずゴミ箱にたばこを捨ててもらうために「投票制」という性質を加えることによって、人々の行動を非強制的に喚起するのです。これをNudgeと言います。

HRの世界でもGoogle等では社員の健康状態をよくするために冷蔵庫の配列を目線に近い場所に健康的なものを、目線から遠い場所に非健康的なものを置くことによって社員の行動を非強制的に喚起しています。

これはインセンティブにも通ずるものがあり、より良いパフォーマンスを発揮してもらうため、「どのような工夫を加えれば非強制的に行動を喚起できるのか」を考えることが重要であり、金銭的インセンティブのみに頼る必要はありません。

2.インセンティブに関する原則

とはいえ、金銭的インセンティブが主流であることは間違いありません。どのような仕組みを構築するべきなのか、その根拠となるのが以下の原則です。

・行動と結果(パフォーマンス)の偶発的な関係性があること
・時系列の行動が報酬に結びついている(1月にX、2月にY、結果としてZZ)
・個々の努力が成果に結びついている(上記と類似)
・知覚的な成果管理(目に見える形で成果がでる)
・現実的な目標(Too muchは逆にやる気なくす)と妥当な報酬(Too lessもやる気なくす)
・行動のタイミングに紐付いて報酬が支払われること(今日やれば明日もらえる、というスピード感)

例えば、

・顧客のリード10件を獲得するのに10,000円インセンティブが1年後に支払われる場合
・10件10,000円インセンティブが翌月に支払われる場合

皆さんの行動はどう変化すると思いますか?

・エンゲージメントスコアを各月調査し、結果的に半期で10点を改善した場合に10,000円インセンティブが支払われる場合
・半期に一度しかないエンゲージメント調査で10点を改善した場合に10,000円インセンティブが支払われる場合

継続的に努力するのはどちらでしょうか?同じ金銭的なインパクトを持つインセンティブでも、その仕組みによって、創出できる行動の違いが出てくることがわかると思います。

3. インセンティブプログラムの開発方法

1)何にインセンティブを与えるかを決定する。何を選ぶかが重要。選んだもの以上のものは得られない(例えば、売上に対して報酬インセンティブを設定する場合、原価を下げることはできない、など)。
2) 報酬を支払うための成果基準を決定する(目標に対してXX%の超過分に対して、など)
3) 報酬の授与方法を決定する(個人or集団、賃金or機会、など)
4) 振り返りを行うため、インセンティブのパフォーマンス測定プロセスを開発する
5) 社員に対して制度の概要詳細を包括的に伝達する
6) 約束通りの報酬を提供する

前回のブログの通り、「何に対してインセンティブを与えるか」という事がアメリカと日本では大きく異なっており、日本の家族手当や育児手当は「ステータス」に対して支払っているもの。一方で、欧米のメリットペイやゲインシェアリングなどは「パフォーマンス」に対して支払っているもの、です。

・「ステータス」に支払う仕組みによって「安心感」は生まれているかもしれないが、「モチベーション」は生まれていない。

・「パフォーマンス」に支払う仕組みによって「モチベーション」は生まれているかもしれないが、「安心感」は生まれていない。

上記の点をきちんと理解しておく必要があるのです。

4.なぜインセンティブ制度が失敗するのか

以下の内容がインセンティブ制度が失敗する要因です。

・実行能力の欠如(測定できないことをインセンティブにしてしまう。または、与えられないことを与えられると言ってしまう、など)
・成果に対するコントロールの欠如
・努力がパフォーマンスにつながらず、パフォーマンスは結果につながらない
・パフォーマンス測定が正確でない(例:「高い顧客評価を得る」が目標設定にありながら、顧客に対する評価のヒアリングを体系的に行っていない、など)
・報酬が妥当でない(Too muchな負担、Too lessな報酬)
・パフォーマンスが異なっても、報酬が大差ない

「結局、あのインセンティブ制度って機能してないよね」

この言葉が出てしまう事が最もNGです。その要因は上記のいずれかに該当します。例えば、顧客満足度評価に対してインセンティブを設定した場合、以下の準備と運用が必要になります。

① ”今”の顧客満足度評価(5段階評価で平均が3.2)
② ”実行中”の社員の行動に関する情報(XXが”新しく”AAをした)
③ ”実行後”の顧客満足度評価(5段階評価で3.4になった 0.2Pアップ)
④ 0.2Pアップに対してインセンティブを支払う

結局、運用(オペレーション)が増えるため、この点を費用対効果の側面からきちんと考慮しなくてはならないということになりますね。

一方で、ステータスに対して支払うインセンティブはそのオペレーションが発生しません。ルーティン化できるのです。その反動として、「成果を出さなくてもお金がもらえる」環境を作り出し、「成果を出している人がモチベーションを下げる」という可能性を生みます。

双方を考慮した上で、「何に対してインセンティブを与えるか」をきちんと考えなくてはならないのです。

5.日本のインセンティブ事例

以下にリンクを貼っておきます。ご興味ありましたらご覧ください。

「私」を動かすインセンティブシステム by リクルートワークス研究所


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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