HSPの頭の中
あたしには、男女問わず人から言われて鵜呑みにできない、数々の言葉がある。
たとえば、イツメンの友だちに、「なんか今日、可愛くない!?」と言われたら、ほんとうにいつもより良い顔面に(メイクのおかげで)仕上がっているか、髪がいつもよりサラサラな可能性がある。今日は客観的に見たらちょっとイケてる日なのだろう。もしこの日にあたしが、出かける前に鏡を見て、「今日のあたし、割とイケてるじゃん!」と思った日にイツメンの友だちから同じ言葉をかけられたら、これは自分至上、かなりイケてる日であると認定することができる。自他共に認める、「イケてる」あたし。渋谷に行って、逆ナンした方がいいかもしれない日、ナンバーワン。マジで今すぐ、ハチ公前集合するべき。そんなときは、バイトの給料日まであと10日以上もあることや、バイト先にいる気になるイケメンに、あたしより何倍も可愛い年下の彼女がいたことなんて、もうどうでもいい。( なんかバイトネタ多くない? ) そんなことより、今日のあたしが「イケてる」ことの方が、ずっと大事だ。
逆にどんなに褒めてても、全く信じられないこともある。親交の少ない人から言われることは、まず疑ってかかる。そんなのは当たり前か。「才能あるね」どこがどういう風に?あたしのこと、そんなに知ってるっけ?「頭いいね!」もうこれは完全に嘘。なぜならあたしは頭が良くない。そのフリがうまいだけだ。( そうなの?) あたしがこのように信じられないのは、その人の「(あたしのことを)知りもしないくせに、相手の喜びそうなことを言って、この場を取り繕っておこう」という魂胆が丸見えだから、ではない。相手が言った誉め言葉を安易に信じ切り、ある日突然、自分はそうではなかった、ということを知ってしまって、その真実に自分が傷ついてしまうことを避けるからだ。こうなってしまうことが、あたしにとって、とても辛い。
これはHSPゆえの、自己防衛法なのだろうか。あたしは結果がわからないすべてのことに対して、たとえ自分にとって良い結果が、優勢であると判断できる状態にあっても、常に最悪な結果を想像しておいて、傷つかないための準備をしておく。こうでもしないと、最悪な結果に陥ってしまった時、立ち直れなくなってしまう。あたしにとって、「ハート」がすべてだ。気分がエネルギーに満ち溢れたぷるっぷるのハートであれば、どれだけ困難なことであっても立ち向かおうとするその姿勢は貫ける。しかし、どんな簡単なこと、たとえ外に出かけるだけのことであっても、しおれたカッサカサの落ち葉のような気分のハートなら、それも不可能だ。
たとえば、いつもなら好意的な受け答えをしてくれるバイトのおばさんが、あたしが話を振っても、「へー」「ふーん」としか受け答えしてくれなかったら、そういう態度を取られた原因を連想ゲームのように、いくつもいくつも脳内に広げて、なぜなのかを探ってしまう。意図的に探ろうとせずとも、気付いた時にはもう、脳内でそれが行われているのである。「おばさんが単に不機嫌だった」というあたしにはコントロールのできない理由から、「あたしが振った話が、おばさんの暗い過去を思い出すトリガーになってしまい、おばさんを悲しませた」というあたしが原因となった理由まで。
簡単に傷付くことが可能なら、簡単に感動することも可能だ。スポーツの試合で日本が勝利した、その場面がテレビから目に飛び込んできたその瞬間に涙が流れる。映画で、ドラマで聞いたセリフを瞬時に自分の人生で辛かった時に当てはめ、思い出し、泣くこともある。自分には関係のないものや人のできごとであったとしても、もはや自分に起こったできごととして扱うことができる。共感能力がものすごく高い。
だから「あなたには、その価値がある」というその言葉、そのものに共感できないはずがない。ボロボロ涙を流してしまう。動画配信サービス Netflix の「クィア・アイ」は泣かずには見られない。「クィア・アイ」を知らない人のために説明をしておくと、それぞれ得意の専門分野をもつゲイの5人組、通称「ファブ5」が、自信を喪失してしまった人や、変わりたいけど変われない、そんな人々のために素敵な自分への生まれ変わりを手助けしながら、本人に自信をたっぷりつける番組だ。
たいして期待せずに見たけどこれは、毎回のエピソードが感動の連続だった。毎回あたしを泣かせるつもりか。、、、どうやらそのつもりらしい。すごいと思うのは、エピソードの冒頭で自信がなくて、なかなか自分のことについて話したがらず、オドオドしていた主人公が、後半には驚くほど見違えることだ。笑顔はまぶしくて、堂々と楽しそうに話す。
いくつもあるエピソードの中で、「自分に自信が持てないんだ」とファブ5に相談する主人公は今までに何人もいた。「スタイルが良くないから、こんな洋服は似合わない」とか、「こんな見た目だから、好きな人は振り向いてもくれないよ」、等。その度にファブ5は面と向かって、きっぱりと否定する。「君は自分の容姿を醜いと言ったけど、僕はそうは思わない、そんなことはないよ」と。
自分で自分を認められずに、自信喪失に陥る主人公を奮い立たせる、魔法の言葉がこれだ。「君には、その価値がある = You deserve it」。この言葉を聞いたときに、本当に涙が溢れた。あたしはこの言葉を、今までずっと待っていたんだ、と思った。人生で、何かの端から落ちそうになって、もうダメだ…というときに真っ先に思い出したい言葉だ。ちなみに 『クィア・ アイ イン ジャパン』、ファブ5が来日して、日本人を自信たっぷりに仕上げたエピソードはもう既に公開か開始されたので、心が折れそうな方は是非観てほしい。
あたしは人生に、計画を立ててるつもりはそんなにないのだけど、やっぱり心や頭のどこかで勝手に筋道ができているからか、実際に自分に起きたできごとに対して、「こんなのあたしの人生プランにない」「予想外かつ、想定外!」と思うときがあって少々笑ってしまう。でもそんなことが起こったときこそ、どういう風に自分が舵を切るかが、今後の人生にものすごく響くのだろうなと感じている。でもどう舵を切っても、きっと正解でもあるし、失敗でもあるのだと思う。