冒険はいつだって想いのままにという話
一人旅がしたくなった。
ほぼ最低限のものだけ持って、後は特に目的も定めずにどこかへと。ただ純粋に、旅がしたくなった。
どこへ行こうかと色々考えて、ふとハノイ時代の友人を思い出した。
出会った当初はベトナムの航空会社に勤める、日本人CA幻の一期生という珍しい(?)経歴の持ち主。現在は地元の佐賀・唐津に戻って民泊を始めた様で、今まで九州に行ったことのない私が行き先を決めるのに、ちょうどいいきっかけになった。
「せっかくだしサプライズでも仕掛けよう」と閃いた私は、Web予約に偽名を入力した。フリーのアドレスにも使用している本名のアナグラムで、余程勘が鋭くない限りはバレないだろう。後は移動手段だが、今回は行きを夜行バスに、帰りを飛行機にした。単純な距離で言えば壱岐空港の方が近いようだが、唐津間との移動の容易さで福岡を選んでいる。ここはもう一捻りしてもよかったかもしれないと、後から振り返って思う。
さて当日、仕事から帰宅してすぐに出発準備。支度は前日までにほぼ済ませてあって、出発は大阪駅の高架下にあるバス停から。それまでは近くで夕食を済ませて手軽なお土産を購入した。実は夜行バスに乗るのが初めてだった私は、コンタクトレンズを外し忘れたせいで深夜の休憩時に起きるや否や目が痛くなった。すぐに目薬でいたわって、レンズはケースへとしまった。
翌朝、福岡駅付近のバスターミナルへ到着。チェックインまでは結構時間があったので、近くの喫茶店に入ってモーニングを注文したり、書店で気になる本を探したりする。
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昼食を済ませてから、再びバスターミナルへ。調べたところ目的地付近まで一発で行けるようで、そこまで乗車。事前に送られていた地図を頼りに歩いて、いざ家の前へ。
元々は祖父母の家だったのを、手直しして民泊に。もちろん、写真にある壁の塗装も含めてだ。私が訪れた時にはフリーランスの方が長期滞在し、さらに中学受験を控えた父子もやって来た。部屋の窓からは唐津城が見え、同時に海岸も近い。せっかくなので、ここに載せておきたい。
予約していたのが私だとは全く気づいていなかった。
心底驚いた様子で、それ以上にとても喜んでくれていた。「びっくり」と「ウケる」を交互に連発しながら会話が弾む。
最後に会ったのは、確か2020年の1月でテト(旧正月)の前だった。そうか、あれからもう3年も経ったのか。SNSで本人の姿も含め近況を垣間見ることは度々あったが、それでもこうして以前と変わらない関係でいられるのは本当にありがたい。
その日の夜は一緒に夕食へ、七輪で焼く佐賀牛と刺身に舌鼓を打った。どれも美味しくて写真を撮り忘れたし、何なら梅酒が信じられないくらいに美味しかった。太閤梅という地元の酒蔵で造られている銘柄だそうで、これは滞在中に土産で買うことにする。いや絶対に買う。
久々に会って話したのは、例えば空白の3年間を埋めるお互いの近況。途中恋愛事情を挟んだり、それが人生設計に関する相談に派生したりしながら、ラストオーダーまであっという間だった。
ちなみに今回の予約の際、最寄りの空港として壱岐空港が表示された話をした。どうやら予約サイトの仕様によるものらしく、決して壱岐空港を経由しフェリーで唐津まで来るというルートを推奨している訳では無いらしい。
帰り道には満月と星空の下、神社の境内を経由して歩いた。
繰り返しになるが、今回の旅に目的はない。
帰りの飛行機まではどこへ行こうと自由だし、逆にどこへも行かず家に引きこもってもいい。それでも一応尋ねてみると、バスか電車でしばらく行った先の武雄市図書館が有名だという。この日は日曜日で県内のバスが無料だというので、近くのバスターミナルから出発した。
普通バスなのでゆっくりと、途中山道を上り下りするなどして2時間ほど。ついに目的地に到着すると、気のせいか建物に見覚えがあった。
いつどこで見たのかは思い出せないが、10年くらい前にテレビか何かで見た気がする。確か蔦屋書店と提携して、スターバックスも誘致したとか、そんな感じの内容だった。
(一応)建築学生でもある私は、じっくり館内を見て回ったり、建築関係の本を手に取っては読んだりもした。特に平置きしている本のセレクトが非常にいい。ついつい時間が経つのを忘れてしまう。
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帰りは電車、しかもロマンシング佐賀のラッピング仕様だった。今回の日記、表題はキャッチコピーから拝借しているが、素直に良いフレーズだと思う。まさに今回の一人旅みたいなものだ。
この家を気に入った点のひとつとして、縁側によく遊びに来る野良猫たちも紹介したい。特に日差しの出ている時にはお茶を片手に猫たちを眺めていて、決して飼い猫ではないのに、比較的近くまでは許してくれる。しかし触れようと思うと逃げられる。逃げられて、少し経つとまた戻ってくる。
上でも軽く触れたが、唐津城というのがある。地理的には湾の中間部に位置しており、天守閣からは周辺の島を含む外海までが一望できるようになっている。西の方には風力発電のタービンが何基か見えたりもする。
人生の大半を北海道で過ごしていた身からすると、城がある町並みというのがとても新鮮だし、同時に羨ましくもある。函館にある星型はともかくとして、古くからその土地に根付いた、護ってきた象徴が今も変わらずそこにあるということに、とても大きな価値を感じる。
チェックアウトも済ませた最後の最後に、居間にあったノートにコメントを書き残した。"思い出ノート"とか呼び方は色々ある、アレだ。
居心地の良い場所だったこと、実りある休暇になったこと、いつかまた泊まりに来たいこと、そして最後は「ありがとう」と「行ってきます」で締め括った。
駅前の物産館にも立ち寄った。目当てはもちろん梅酒・太閤梅。複数本買おうかと迷って、今回は1本だけにしておいた。
いずれまた来ることもあるだろう。その時は壱岐経由でもいいかもしれない。朝の便で壱岐に向かって、その後しばらくは島内を巡る。夕方頃にフェリーで本土に戻り再会を果たす。
とっさに思いついたにしては妙案だと思う。
2023年1月
長い旅の途中の魔法使い 案山子
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