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バニラとタバコ

「バニラくさっ」

電車でうたた寝していると鼻腔を支配してくるバニラの匂いで目が覚めた。

マスクをしているのに鼻に直接バニラエッセンスを垂らしたぐらいのバニラの匂い。

匂いの元に目をやるとそこには1人の女性が居た。

どんな面をしているのか拝んでやろうと思い
顔を見た瞬間、呼吸が止まる。

とても美人だった。

例えるなら小松菜奈がショートになってパーマをかけた感じと言えば伝わるだろうか

その女性は私と同じ電車でおり、最寄りのコンビニの喫煙所でタバコを吸い始めた。

それから何回か一緒の電車に乗ることがあった。

どうやら毎回電車を降りたらタバコを吸うのがルーティーンらしい。

気づいたら私も禁煙していたタバコを再開して一緒に吸うようになった。

当時、精神的に少し大変で安らぎが欲しかったんだと思う。彼女を見ていることで静かな美術館で絵を見ているような気分になっていた。

決して話しかけたりはせず、ただタバコを同じ喫煙所で吸うだけでよかった。それだけで辛い日々が少し救われたのだ。

そんな日々が数ヶ月経ち、少し暑くなってきた。

仕事は少し落ち着き、精神的にもある程度余裕ができた。だがそれと同時に彼女はぱったり見かけなくなっていた。

人生で初めて後悔したかもしれない。いつもなら自分は間違っていなかったと納得させていた。

可能ならば彼女と少しお話しをしてみたかった。

ほんの少しだけ。

お気に入りの絵を部屋に飾って近くに感じてみたかった。

それだけなんだけどね。

そして僕はピースライトを時々吸うようにした。

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