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冷たい生たまごを熱湯に入れる

すると内側の空気が膨張してビシッ!とヒビが入る。

そんな話。

※本文章はいじめを擁護するものではありませんし、いじめに言及した話でもありません。

ましてやゆで卵のおいしい作り方の話でもありませんが
個人的には熱湯に7分が一番好きです。

1.きっかけ

昨晩、春名風花(はるかぜ)さんのブログでこんなお知らせがあった。


https://lineblog.me/harukazechan/archives/1688788.html

要約すると


・絵本の挿し絵に、撮影者に無断で写真を模写したものがあった。


・それ自体は撮影者本人から親告が無ければ罪にはならないが、絵本の内容がいじめを無くしたいという気持ちを綴ったものである事から絵本の販売を停止した。

というもの。

挿し絵ははるかぜさんとは別の方が描いており、巻き込み事故のような形で販売停止になってしまったようだ。

僕ははるかぜさんのいじめに対する考え方はわりと好きだし支持しているので販売停止はとても残念だった。

彼女のブログからも読者を裏切ってしまった事や自分が裏切られた事に対して残念な気持ちが伝わってきて、そんな中販売停止を決めた潔さやけじめの付け方がとてもかっこいいと感じたりした。

問題の写真がこちら

うっ……うわばきかぁ…………





2.いじめとうわばき

大学生になって靴で屋内をスタスタ歩き回るようになってから一段と感じる事がある。


なぜ日本のロースクールはうわばきを使うのだろう。

自分の場合は高校までうわばきを履いていたわけだけれども、
「いじめ」と言えば「うわばき」みたいところある。

そう感じるのはなんとなしなのか、全校集会やクラス会議のせいなのか分からないけど、いじめの始まりってうわばき無くなりがちだよね。

それが仲のいい友人がやったのであれば

「おいお前ふざけんなよ~」

なんて言って次にこっちから隠してやる。

で済むんだけど、そんな関係じゃないと「いじめ」だし。

僕が初めて人の悪意に晒されたと感じたのもうわばきだった。






3.そうは言っても床は冷たいわけで

小学2年生の事。

その頃の僕は治安の良い地区に住んでいて、少しばかり頭のいい子だった。


友達もそれなりにいて、下ネタも知らず、少しの冒険心とかわいらしいルックスを持った純粋無垢な少年だった。

ぬくぬくの絶頂である。笑

ある日の事、いつものように学校へ行き、いつものように下駄箱を開けるとうわばきがない。

あれ?昨日間違えて別のところに入れたかな?

隣近所を開けてみる。

自分のと思しきものは見つからない。

あれ?昨日そもそもちゃんと下駄箱に入れたっけ?

僕はとんでもないうっかりさんなので、学校の持ち物はひととおり学校か家に忘れていったりした。

さらに高学年のうわばきは下駄箱から豪快に飛び出して昇降口に散らばっていたりするんだけど、周りを見回しても2年生の小さくて綺麗めなうわばきは見当たらない。

もしかして寝ぼけて別の学年のとこ入れた?

僕の学校は毎年学年が変わる事に下駄箱の位置が変わったので(学年で下駄箱が固定されていた)、4月頃はよく別の学年の下駄箱を開けそうになるのだ。

ない。

あーこいつぁやられたな?🤔


こうなってくると友人の仕業に違いない。

靴下で階段を駆け上がり、教室にはいる。

アイツら……いない…………だと!?

友人はまだ登校してしなかった。
前日に隠された可能性も考えて、彼らが登校してから片っ端から話を聞いたが誰もが知らないと言うばかりだった。

そうこうしているうちに朝のチャイムがなった。


さすがに朝の会までに返してくれないとなると友人のおふざけではなさそうだ。

僕はきっと前日自分で変な所に入れたか、よもや持って帰ったのだろうと思い込む事にした。

よくよく考えれば前日は靴を履いて帰っているのだから別のところに上履きだけ入れるはずも無いのだが、その時はとにかく「忘れ物をした!怒られるかも!」の焦りようだったのでとりあえず靴下のまま黙って一日をやり過ごすことにした。




すぐバレた。






そりゃそうだよね。ひとりだけうわばき履いてないんだもん。
怒られるな~いやだな~なんて思いながら、朝下駄箱を開けたらうわばきが無かった旨を伝えた。



そしたら大事になった。




先生はもはやほぼいじめと断定したようだった。
クラス全員の前で

僕のうわばきが無くなったこと。

どこかで見かけたら教えて欲しいこと。

隠してる奴を知ってたら教えて欲しいこと


隠してる奴は自分から名乗り出ること

なんかを話した。

僕はその時初めて「いじめにあったんだ」と知った。


頬が少しヒリリとした。

それまでそんな事1ミリも思い浮かばなかった。

自分のうっかりかタチの悪い冗談くらいの気持ちでいたから。

だってそれまで一度も人に悪意なんて向けられたこと無かったから。

周りからの愛情の風呂に浸かっていたから。





先生は緑のスリッパを貸してくれた。

いいです、靴下気持ちいいんで。なんて言って断ろうとしたけど、危ないから履いていなさいって。

クラスのみんなは総出で探してくれた。

いやきっと自分のうっかりだ!もしそうだったら大事になってしまったぞ!
なんて初めは思ってたんだけど

見つからないうちに

(でもこの中にもしかしたら隠し場所知ってる人いるのかな。)
なんて思ったり、


みんなが青いうわばきの中、緑のスリッパがやけに目立ったり


お昼時間に別のクラスの人の「なんでスリッパなの?」に説明してるうちにめんどくさく悲しくなってきてスリッパ脱いだりしたんだけど、

そうは言っても床は冷たいわけで、

周りが優しく暖かくしてくれるのと反比例してどんどんどんどん心は冷たくなってしまって


ついにはぽろぽろと形になって溢れてしまう。



初めて人の悪意に晒された。



誰が僕を嫌いなんだろう。




自分の何が否定されたんだろう。

最初はまるでなんともない小さなささくれだったくせに

血液にのってぐんぐん進んで

心臓へ突き刺さってしまったようだった。

スリッパも靴下も酷くみじめに思えて

とにかくその日の午後は帰りたい気持ちでいっぱいだった。

でも帰ったところで母にどう説明しよう。

「隠された」なんて言ったら悲しむに違いない。

母が悲しむ事を考えると、ますます悲しくなって

もはや決壊したダムは止められないのだった。


4.事の顛末

その日の最後の授業中、突然別の先生に廊下に呼び出された。

母かな?なんて思いながらどう説明しようなんて焦ってたら、全然知らない高学年のお兄さんがいた。

また大事になってしまった!?

お兄さんの手には僕のうわばきがあった。


事の顛末はこうだ。

高学年のお兄さんは昨日の下校時、友人と同じ名前の上履きが下駄箱に転がっているのを見つけた。

彼は友人をからかおうとそれをそのまま隠したのだが
友人の方は翌朝自分のうわばきを履いて来たので何事もなく
お兄さんは前日に隠した事を忘れていた。

という訳だ。

うわばきが下駄箱に入っていなかったのは多分僕のうっかりだろう。

絶対に許したくないお兄さんから帰ってきたうわばきは

最後の記憶より少し汚れていた。

二度と履きたくなかった。

そして

自分の心も昨日より少し汚れた。


5.周りの環境が悪いわけじゃなくて

僕の場合は悪意も無く全くいじめでは無かったし、
なんなら自分のうっかりも混ざっているわけで友人を疑うのはお門違いだったわけだけれども、

少しでも友人を疑ってしまったこと、初めて悪意に晒されたと感じた衝撃は、この先汚されたうわばきを見る度に思い出すだろうと思う。

なんなら事故と言ってもいいこの話だけど、

外の環境が悪いわけじゃなくて、
タイミングというか自分のとの相性が悪くて
内側からの圧力で自分にヒビが入っちゃう事って往々にしてあるよねって話。

熱湯の中に冷えた生たまごを入れた時みたいに。

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