ボールが落ちてこない
あの日、高く高く空に向かって投げたボールは何処に行ったのだろうか。私が生きるこの世界には重力というものがあるから、あのボールはいつか絶対に落ちるずなのに、何故まだ落ちてこないんだろう。私、あの日から少し進みすぎているのかな。もうボールを投げた日と同じ場所には居ないのかな。それとも、ボールを投げた時からそんなに時間が経っていないのかな。もしかしたらまだ、落ちてくる時じゃないのかもしれない。
私が空に向かってボールを投げる時、私は、ボールが太陽に届くほどに、どこまでも高く上に登っていくことを夢見ている。だけどいざボールが自分の手から離れると、私はボールが落ちることを心配し出す。もちろんボールはいつかは絶対に落ちるのだけど、出来るだけ悲惨な落ち方にならないように、祈るようにボールのことを心配する。
ほらね、今日もまたあの日のボールの行方を心配しているよ。夢を見ながらボールを空に投げた日のことなんてまるで忘れている。私は心配をするために夢を見ているのか、それとも次の夢を見るために心配をしているのか。どっちが中心にあるのかも分からなくなってきたよ。
いや、もしかして、ボールを投げて心配をするという一連の行為の繰り返し自体が夢なのかもしれない。夢の中には心配や祈りが含まれていてもいいだろう。
だから、今日も空を見上げていつ落ちてくるかも分からないボールの心配をするよ。悲惨さを防ぐためにとりあえずトランポリンを用意しておこう。
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