おれ急に読書感想文が書きたいって話②
まえの記事のつづきです。
優月 茜「訳あり王女は盲目のピアニストに恋をする」
https://ncode.syosetu.com/n1044gk/
あらすじ:貧しい盲目のピアニスト・ギヨームは、妹の手術代を捻出するため、参加賞のお金目当てで王女様の婿選びに参加する。条件は「笑わない王女」と呼ばれる彼女を笑顔にすること。身よりのない盲目の自分が選ばれるはずはないと思っていたが、国王に名前を呼ばれたのは、なんとギヨームだった。そして婚約を交わした日、王女様はギヨームにそっとひみつを打ち明ける。
5,000字の短編。かわいらしい童話みたいな、ほんわかとした作品。「こまけえことはいいんだよ!王女、ギヨーム、幸せにな!」という、さっぱりした読後感。でもこの物語に波はいらないよ~と思わせるのは、ギヨームというキャラクターのちょっとすっとぼけたような穏やかな性格によるものなのか、なんなのか。登場人物を安易にいたぶりたくなる私は反省しきり。いいか。登場人物いたぶって物語に強弱をつけた気になるな。
夏樹「墓守フリューリと8文字の伝言」
あらすじ:墓守の少女フリューリ。人々に疎まれながら人々の最期を看取る彼女に語られた、8人分の伝言。
導師タリス、くらいまでは順不同に繋がっていく時間差の群像劇だと思っていたんだけど、偽物・本物が難解でこまった。何回読んでもよくわからない。ただ弟の日記調がうまくて唸った。日記調の文章、書いてみたことがある人はわかると思うんだけど、なかなかどうしてけっこう難しいんだよね……。
表現がきれいなのと、なんというか絵本のように絢爛な1枚絵がつぎつぎと浮かんでくるような独特の筆致でとても読み心地がよかった。フリューリは救われない。誰かに絵をつけてほしい作品。切り絵とか、影絵みたいな感じのタッチだと尚可。
森山 満穂「shape of」
あらすじ:交通事故で半身不随になった兄が、双子の弟に「僕はどうしたらいい?」と問いかけられたとき。抗いようなく口にした切ない願いとは。
あんでもそつなくこなす天才タイプの弟に、なんとか追いつかれまいと努力に努力を重ねていた兄が、交通事故で下半身不随に……という、痛ましい展開。あれ? でも冒頭、「象」はサッカーしてたじゃん、と一度戻って、うんやっぱり象はプロのサッカー選手になってる。読み進めていくと兄・象のある願いが明らかになるんだけど、切なくてたまらない。正しかったのか、間違っていたのか、葛藤するシーンにも、何一つかけてやれる言葉はなくて、うーん、全体的にさわやかなのに「悲惨」って感じ。「託す」「託される」という言葉なんかで表現されるものよりももっと切実で、逃れようがなくて、重くて暗い。
羽衣 とびこ「挟まったままの私たちは」
あらすじ:7歳年上の幼馴染「おねえ」と主人公の「すみ」の関係は、「内」と「外」のあいだ。どちらでもない、はざまの上。おねえはもうすぐ結婚する。おねえは新しい「内」に、泳いでいってしまう。はざまに私を置いていかないで。
これめっちゃ好きだった~! おねえ(幼馴染)、すみ(私)、おとう(父)、おかあ(母)、セリフのある人たちのキャラクターがはっきりと輪郭を持っていて、外見についての描写はほとんどないのに、表情まで浮かんでくるような文章。ガミガミ言うコウネンキのすみママがいいキャラしている。そうそう、「内」だからね、おとうもおかあも……、と思いながらほほえましく読んでしまった。おねえに対するすみの、甘えた慕情がいじらしい。
同性の友人が結婚するときに、妙に寂しくなるというのはよく聞く話で、ただ私にはその気持ちがよくわからなかった。これを読んで、つまり一つには、彼女たちみたいに、内でも外でもない場所に置かれた特別な「お互い」だったのに、片方がそれでは失礼とばかりに誰かと「内」を作ってしまうことの、取り残された寂しさだったのか、と納得。「内」じゃないからこそ言えること、「外」じゃないからこそぶつかれること、あるある。たしかに。