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[短編小説] Estrella

「エストレア。」

君が言った。

「なに?エクレア?」

「違う。(笑) エストレア!」

「なにそれ。どっかのお姫様?」

「違うっての。(笑) 本当に何も知らないね。君は。」

「どういう意味?」

「スペイン語で流れ星とか、星とかって意味!」

「じゃあ流れ星って言えば良くない? それかシューティングスター。」

「君は趣ってものも知らないんだね。あえてカッコつけて言ってるの。お医者さんにダメって怒られるのをドクターストップっていうみたいに。」

「それは趣とは違くない?」

「いちいち揚げ足を取ってくるね、君は。ほらまた流れ星。」

「え、エストレア?」

「君は人を小馬鹿にする天才だね。」

 今の時間は夜中の二時。広い公園の野原に高校生二人が寝転がっている。本来なら補導されてもおかしくないが、こんな田舎の街ではそんなこと誰も気にしないだろう。彼女とは週に1回ほど、夜な夜な二人で星を見ている。とてもロマンチックのように思えるが、「星を一緒に見る友達」であって、それ以上でも以下でもない。なんとも不思議な関係だが、一番不思議なのは彼女のほうだ。

 彼女と一緒に星を見るようになったのは、ここ半年で、僕は以前から一人でこうして夜な夜な星を見に来ていたのだが、ある時いつものこの公園に先客がいた。それが彼女だった。僕は人がいることに気づき、「こんな夜中に出歩くなよ。」と思ったが、「こんばんは。」と彼女のほうから話しかけてきた。
 見たところ自分と同じくらいの年齢かなと思ったので、余計に「こんな夜中に出歩くなよ。」と思った。
 その日は「よくここに来るんですか。」などと当たり障りのない会話をしながら一時間ほど星を見て帰った。

 それから一週間ほどたった夜に、僕はまた星を見に行った。今日こそは一人でゆっくりと星を見れると思ったが、また先客がいた。よく見ると大学生くらいのカップルだった。「はあ。」とため息をつき帰ろうとしたとき、後ろから「こんばんは。」と声をかけられた。僕は驚いて声も出せずに振り返ると、先週一緒に星を見た彼女が立っていた。

「今日は先客がいますね。他のところに行きません?」

 警戒心というものは彼女にはないのかと思ったが、ゆっくりと星を見れないことのほうがストレスだったので、彼女について行くことにした。

 すぐ近くにある公園というか空き地というか、とにかく人気のない場所に移動した。さっきの大学生のカップルのこともあり、前に会った時よりも会話が弾んだ。その中で実は同じ高校に通っていて同い年であることが判明した。こんな田舎の高校でも、同学年に知らない人がいるのか。まあ僕が周りに興味がないだけか。
 ある程度話した後に「また来週。」と言い、大人しく家に帰った。特に意味はないが、僕は毎週金曜日を「星を見に行く日」にしていた。彼女もどうも同じタイミングで星を見に来るらしい。一緒に星を見ながら、なんでもない話をする。そして「また来週。」と言って家に帰る。それが半年も続いている。

 本来ならば、運命的な出会いで、そのままお互いに惹かれていき、星を見ながら告白をして、付き合って、ハッピーエンド。というのがありがちな展開だと思うのだが、僕と彼女は、単なる「星を一緒に見る友達」なのであって、ずっとそれが変わることはないだろうと思う。そう思いたい。

「もうそろそろ帰ろうよ。寒くなってきた。」

 僕は今日、何故だかすごく疲れていて眠たかった。

「そうだね。今日は帰ろうか。」

「じゃあ、またらいしゅ、あ。」

「エストレア。」

 エストレアがユニゾンした。これは日本語の文法として正しいのか。もう一度言うが、エストレアがユニゾンした。

「真似しないでよ(笑)」

「真似するってスペイン語でなんて言うの?」

そんなの僕が知る訳がない。

「マネリータとかじゃない?」

「適当言わないでよね。」

僕は彼女の名前すら知らない。

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