義足の彼との物語を、児童文庫で書くにあたって。【『きみがキセキをくれたから』(講談社青い鳥文庫)が発売されました! 前編】
この記事を読んでくださってありがとうございます!
五十嵐美怜(いがらし・みさと)です。
講談社青い鳥文庫さんからの一作目・『きみがキセキをくれたから』(イラスト/花芽宮るる様 監修/谷口正典様)がついに発売しました!
お手に取ってくれた方もいますでしょうか……?
新刊発売でナイーブになっているので、「買ったよ」「読んだよ」「本屋でみかけたよ」「気になっているよ」「図書館で読むよ」などなんでもいいからご報告いただけると泣いて喜びます。( ; ; )←
内容紹介
この物語は、中学生になったばかりの美桜ちゃんがあこがれの須藤先輩と再会するところから始まります。
小学生のころ陸上クラブに入っていた美桜ちゃん。隣町の学校のスター選手だった須藤先輩とは、大会で一度だけ話したことがありました。須藤先輩はその少しの会話を覚えていてくれたのです。
しかも先輩は美桜ちゃんを陸上部に誘ってくれました。
嬉しいし、ドキドキする。
だけど美桜ちゃんにはあるトラウマがあり、陸上はもうやらないと決めていました。
ちゃんと断らなきゃ。でも言いづらいし、須藤先輩ともっと話していたい。
そんな葛藤を抱きつつ、陸上部を見学することに。
昨年、凄腕の顧問の先生が赴任してきたらしく、部は活気に溢れていました。
「須藤先輩も小学生のときよりずっと速くなってそうですよね。全国大会とか行けちゃったりして。」
「……そっか、知らない人もいるよな。あのさ、俺……」
県大会で活躍するようなスター選手だった須藤先輩が、ドリンクを運んだりタイムを記録したり……走らずにマネージャー業務をしていることを不思議に思っていた美桜ちゃん。
その後、友人から教えてもらったのは衝撃の事実でした。
転んだから先輩のジャージの長ズボンのすそがずりあがっていて。
……そこから見えた『もの』に、わたしはゴクンと息をのんだ。
(あれって、足、じゃない……?)
足の色にも、靴下の色にも見えない金属。
人間のふくらはぎより細い棒が、夕方の太陽の光を反射してにぶく光っている。
「……須藤先輩、足切断して義足なんだよ。」
あまりのことにその場から逃げ出して、どんな顔をして先輩と接したらいいかわからなくて。
戸惑っていたけれど、須藤先輩が「あこがれの人」という気持ちは変わりません。
前向きな須藤先輩に励まされて、美桜ちゃんももう一度自分の「やりたいこと」と向き合えるようになっていきます。
そして先輩が隠していた「本当の思い」に気づいてしまった美桜ちゃんは……?
……義足の先輩との恋物語。
実はデビュー前に考えていたお話だったのですが、「このお話を児童文庫で書かせてもらえるだろうか」という思いからアイデア帳に眠っていました。
児童文庫はあくまでエンタメですから、「感動した」「いい話だった」と感じてもらうだけではダメだと(五十嵐は)思っています。
読み終わってから「おもしろかった!」「ドキドキした!」とか思ってほしい。
そのバランスって難しいですよね。
児童文庫と児童文学を勉強するたびに思います。
(上手に両立している先生方もたくさんいます。)
ご縁と読者さんに恵まれ、児童文庫の世界で何作か書かせてもらいました。
経験を積んだ今なら、「感動した」「いい話だった」「おもしろかった」「ドキドキした」と全部思ってもらえるような話が書けるんじゃないかと思い、勇気を出して企画を提出しました。
後はレーベルさんのやりたいもの・求めているもの次第です。
両想い恋愛もの、逆ハーレムっぽいもの、複数人の恋愛模様みたいなものなど……流行も混ぜながら、一気に6本のプロットを提出しました。
青い鳥文庫さんの前編集長、元編集長、当時の担当さん。
6本の中から、3人が話し合って選んでくださったのが、今回の「義足の先輩」のプロットでした。
「取材や勉強が必要な題材だから、1年や2年は平気でかかるかもしれないけど、書いてくれますか」
お電話でそう言われたときに、うまく言えないけど編集者さんの覚悟のようなものを感じて。わたしも覚悟を持って書きたいなと思いながら「ぜひ、よろしくお願いします」と返事をしました。
勇気を出してプロットを送ってみてよかったです。
「企画が通るかどうかは運とタイミング」だと、尊敬している作家さんが仰っていましたがその通りだと思います。今はダメでも、いつか本にできるかもしれない。何事もあきらめちゃダメですね。
物語ができるまで
大きな題材があるとはいえ、軸は恋愛ものです。
魅力的なヒーロー、自分で行動を起こして成長するヒロイン。
ライバルの存在、はじめて知る「好き」っていう気持ち、ドキドキ、ヤキモチ、すれ違い、人を想うことの喜び……
新しい作品を書くたびに、「今まで書いてきたことは一つも無駄じゃなかったな」と感じます。
恋愛の縦軸に、スポーツの描写、そして「障がいと向き合う」という横軸を入れてプロットを何度も練り直します。縦軸が太すぎても横軸が太すぎてもダメです。美桜ちゃんが「陸上を諦めてしまった理由」は読者が納得できるものにしなくちゃいけないので何度も話し合いました。
プロットが固まってきたら、いよいよ取材です。
担当さんが取材のお願いをしてくださったのは、義足アスリートで義足モデルの谷口正典さんという方でした。
23歳のときに事故に遭い、右足を失ってしまった谷口さん。
谷口さんは広島にお住まいなので、リモートでお話を聞かせてもらうことになりました。
実は「取材をする」ということが初めてなので、かなり緊張しながらお話をしました。(質問を考えたのは五十嵐なのですが、ほとんど担当さんが回してくれました)
「足を失った当時の気持ち」や「パートナーである奥様への思い」など、踏み込んだ質問にもお答えいただきました。
プロットも原稿も谷口さんに監修してもらっています。
本当にありがとうございました。そしてこれからもお世話になります。
取材の最後に「児童書を通して子どもたちに伝えたい想いはありますか」と伺ったところ、「諦めなかったら乗り越えていける」「どん底でもなんとかなる」ということを知ってほしいと仰っていました。
それは、わたしが児童書を書くうえで毎回テーマにしていることでした。
谷口さんの想いを、全力で物語にして伝えたい!と思い気合いが入りました。
「先輩、教えてくれたじゃないですか。あきらめなければどうにかなるって。走れるのにやらないのは、もったいないって……!」
あるページの美桜ちゃんのセリフに、想いがこもっているような気がします。
そして、わたしと担当さんが目指した「作品像」にはもう一つ大きなテーマがありました。
それを踏まえながら年明けに原稿に入りました。
とても長くなってしまったので、続きはまた明日更新します(^^)
ここまで読んでくださって、ありがとうございました!
五十嵐 美怜
↓作品ページ・試し読みはこちらから。花芽宮るる先生の表紙と挿絵が爽やかで可愛いです。
↓参考にさせていただいた谷口正典さんとパートナーの益村泉月珠さんの著書「逆境のトリセツ」(幻冬舎)はこちら。お二人の絆が素敵です。