映画レポ|『恋する惑星』90年代香港のユニークな恋模様
“57時間後、僕は彼女に恋をした___”
落ちてしまう1分前までは、誰も予想できない摩訶不思議な感情。何十年も前から、この惑星は恋に満ちている。
◾️あらすじ
◾️舞台は90年代、無国籍な香港の街
この映画の魅力は、なんといってもレトロな街の風景や人々の暮らし様を映し出している点だろう。
小食店から紙カップで渡されるコーヒーに、アルミホイルで包まれたサラダ。刑事223号の狭くごちゃついた部屋、妖しい金髪の女…。
もちろんストーリーもユニークでかなりおもしろいのだが、現世で生きているだけでは決して味わえない当時の空気感をそのまま映像として閉じ込めた、映画の醍醐味を存分に味わえる作品となっている。これだから、古い映画漁りは辞められない。
◾️警官と恋に落ちるのは、法を犯すヒロインたち
今作では2組の恋模様を描いたオムニバス構成になっているのだが、どちらも共通して〈失恋警官×犯罪者(?)ヒロイン〉という組み合わせになっている。
私のお気に入りは、刑事223号に恋をする小食店の店員フェイ。彼女は刑事223号の元恋人が預けてきた合鍵を持ち出し、なんと部屋へと侵入。寂れた失恋男の部屋をきれいに掃除し、水槽の魚を増やしたりマグカップを新調したりとやりたい放題。やっていることは不法侵入そのものなのだが、彼が元気になる姿を想像してふふふ、と笑い、お気に入りの音楽を流す彼女はとてもキュートだ。
登場人物全員が何かしらの問題を抱えているにもかかわらず、ちょっとドジで真っ直ぐなところを観ていると段々となんだか愛おしくなってくる。
◾️失恋も悪いものじゃない
失恋は辛い。失恋した当人の脳内には、外界のことなど何も届かないだろう。私にも、食事も喉を通らないほどの失恋経験が多少なりともある。ただ、この『恋する惑星』を観ていると“失恋も悪いものじゃないな”と少しポジティブに感じるのだ。きれいな言葉になってしまうが、失恋は新たな出会いのはじまりでもあるのだから。
今もし失恋をして何をする気にもなれない人がいたら、ぜひこの映画でも観なよと肩を叩きたい。失恋してパイナップル缶を30個も食べて吐いてる男を見れば、少しは気も楽になるだろう。映画を観ている間、余計なことも考えなくて済むし、ね。元気だしなよ。
◾️まとめ
『恋する惑星』のウォン・カーウァイ監督作は、他にも多くの名作がある。『ブエノスアイレス』や『天使の涙』、『ブルーベリーナイツ』、などなど。彼の独特な映像表現が気に入ったならば、ぜひ他の作品も観てみてほしい。
ユニークで、どこか愛おしい私たちの惑星。
うまくいかなくても、方法が間違っていても、真っ直ぐに生きていればきっと道が見つかるはず。
そんな希望が今日も私たちを突き動かすのだ。