【読書感想文】月、星、闇、風、氷、犬
角幡唯介のノンフィクション「極夜行」を読みました。
極夜。
普通の人は生きているうちにまず足を踏み入れることはないであろう、闇の世界。
数ヶ月間、太陽の光を浴びずに真っ暗な世界で生活したら、人間はどうなってしまうんだろう?
あらすじを読んだ時、率直に気になった。
「冬季うつ」という病気がある。
あれに近い状態になるのではないかな、と、読み始める前に予想していた。
その予想はおおむね当たり、
冒険に出発する前から薄暗い環境で気が滅入ってしまい
「嫌だ…行きたくない…」と言っていてわろた。何年もかけて計画したのに。
角幡氏本人にしたら笑い事じゃないだろうけども。
本書ではその精神状態を「極夜病」と書いていた。
人間にとって「太陽の光」がいかに大切なものか、よくわかる。
数ヶ月間、太陽が昇らないので、本当に真っ暗闇なんだろうな、と思っていたけど、基本的に月明かりを頼りに進んでいくらしい(月すら出ない時期もある)
しかも、GPSを使わないで。正気か。
角幡氏にとっては、GPSを使った冒険など、安心安全すぎて冒険ではないらしい。
月明かりだけの、暗い世界の旅なので、描写の変化に乏しく、途中でだれて飽きちゃうかもな…と思っていたけど、
死に直結する様々なピンチに見舞われ、おもしろおかしく表現されていて、ぐいぐい読ませる。
(さすが元新聞記者)
それに、なんといっても、相棒の犬、ウヤミリックの存在が非常に大きかった。
ウヤミリック、すごく賢くていい子なんだよ。
いくら金と時間をかけて入念に準備しても、厳しい自然の世界は思い通りにならないことばかり。
後半、食糧が足りなくなり、万が一の時はウヤミリックを殺してその肉を食べて生き延びなければならない可能性も出てくる。
ウヤちゃん、助かるのかな…どうか、どうか2人とも生きてくれ…と泣きそうな思いで読み進めた。
4ヶ月ぶりに太陽の光を見た時の、達成感と喪失感。
闇の世界で死の恐怖に怯えて、もう二度とこんなところには来たくない、早く太陽を見たい、と切望していたのに、
終わってみれば、新鮮な感動がどんどん色褪せていく…とさみしくなってしまう。
その感情は、育児に似ているな、と思った。
その時その時はしんどくて仕方なくて、投げ出したくなるくらいなのに、終わってみればあっけない。
さて。
今の時代は、ネットで「北極」「シオラパルク」などのワードで検索すると、その土地の写真まで見られる便利な世の中だけど、延々闇の世界を旅するってどんな風景なんだろう。想像できない。
そう思った人は是非、角幡氏のブログを覗いてみてください。
私は読み終わってから極夜の写真の数々を見たのだけど、月光の美しさに鳥肌がたった。
過去に遡るとウヤミリックの写真もあります。かわいい。
結局、角幡氏は極夜行の冒険を成功させたのち、ほぼ毎年のように北極を訪れている模様。
まさに第二の故郷的な場所なんだろうなぁ。
たい焼き