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kimura ryota
2024年7月9日 23:23
取り留めも無く希望を探す心持ちで、トングをかちかちと鳴らす。ブルーベリーの青を溶け込ませたベーグルが、昔飼っていた犬に似ていた。名前はミゲルだった。外国の犬種だと聞いて、当時の知識を総動員して、おしゃれな響きの名前をつけたような覚えがある。進めば、床のタイルが禿げてざらざらになったところが、クロックスのかかとに引っかかる。ベーグルが揺れて、咄嗟に庇う。ミゲルはフリスビーが苦手だったから、結局俺が近
2023年12月27日 20:57
名久井が指差したのは、積もった埃が形を成したような雑居ビルで、思わず怯んだ。階段の一段ずつに足跡が、それは新しく、残っていた。鉄の凹凸を見る。何度も、何度も通り過ぎた人がいるという形跡が、登った先に店があるという確信へ姿を変えたとき、異様に怖かった。場所も、勝手に他人に暴かれる自分自身のことも。別に気づいて欲しい訳ではなかった。誰かに伝えておきたいなら、もうとっくに心の内から溢していたはずだった。
2020年8月1日 18:52
犬だ、とオカジは言いました。思い返せば、犬を見たのは久々のことでした。視力の弱いわたしにとって、その姿はゆらめく黒点のようにしか見えませんが、オカジが犬だというならきっとそれは本当でした。なぜならオカジは、わたしを一度も騙そうとしたり、馬鹿にしようとしたことが無いからです。きっとどんな親友でも、恋人でも、お互いに暗く閉ざした過去を持ち合わせているでしょうが、ずっと二人一緒に育ち、おなじ数のアブ