[書評] ファスト教養 10分で答えがほしい人たち
はじめに
Twitterで見かけておもしろそうだったので早速入手して読んだので以下メモする。
書評
書店に並ぶ「教養としての◯◯」といった書籍を見たときにモヤモヤを感じたことはないだろうか。ファストフードのように手っ取り早く知識を摂取するコンテンツがあふれる現在、その発生原因について、消費者である現代人のおかれた環境を考察し(跋扈する自己責任論や成長への信仰、それらに取り残される不安など)、そういった消費者にコスパ(タイパ)よく情報を提供している某YouTuberたちを例示しコンテンツ制作者の思想を明快に指摘している。このファスト教養、モヤモヤしつつもコンテンツについ手が伸びてしまう点もファストフードに近似しており、うまいネーミングだなと感心した。ぜひみんなも読んでみてほしい。
引用&コメント
P.41
最小限の努力で最大限の成果を上げるというのは特に社会人では重要な心がけだと思う。がしかし、「物事をハック」することで努力量を減らすというのはやはり危険だと思う。自力で作文することができない人が最初からChatGPTに作文させることは効率化ではなくハックだろう。
P.42
ここは小林康夫氏の『教養のためのブックガイド』からの引用部で、自分としては非常に響いた部分なのでまるごと引用した。なぜ本を読むのはいいことなのか?どんな知識をインプットする以外にどんな効用があるのか?については色んな意見があるが、この小林氏の指摘はこれまで聞いたなかで一番納得感があった。脳の想像力と思考力を働かせる際には言語の運用能力が必要。映像や写真(あるいはキャッチフレーズ化された極端な要約)などは脳を働かせることなくインプットされるので脳が疲れない=鍛えられないのだろう。読書大事だな。
P.53
ここね。ファスト教養の消費者像をわかりやすく描写している。
P.57
某YouTuberのコンテンツ制作ポリシーとそのアウトプットを指してこの指摘。辛辣だが的を得ていると感じた。
P.150
音楽などのカルチャーを、ビジネス上の会話についていくためだけの「教養」としてつまみ食いする人々に対しての著者の経験を踏まえた意見。そもそもゴールが違うのでつまみ食いする人たちには相容れない話だと思うし、こんなふうにじっくり取り組む時間も心も余裕がないんだろうな。自分も仕事と子育てでいまは余裕がない。
P.166
そうね、むかしCD売上ランキングにウキウキしていたことを思い出した。いつの間にか、似たようなアーティストでいつもトップ10が埋め尽くされているようになって興味を失った。酷いときには同じアーティスト(アイドル)でトップ10の大半を占めてたりしなかった?
P.173
肩甲骨を剥がしたりね・・・。
P.200
いまの自分に“あなたの古典”はなかった。正直同じ本を複数回読むのは気が乗らない。それでも手元に置いてある本はいつかまた読もうと思っているわけなので、これを機会に手に取ってみよう。
P.209
自由を得るために学ぶ、というのはなんとなく士農工商の時代に元の立場を超えて出世していく仰々しいストーリーを連想してしまったが、自分自身としても、知らなかったことを知ることで問題が解決したり新たな発想を生み出せるという小さな実体験もある。得たい自由とは何かを改めて考えたい。
P.221
ここ重要だと思った。ずば抜けた天才が一人いたところで、受け止める側のその他大勢が無理解だったり逆に無思考に受け入れたりするようでは、天才のアウトプットはものにならないだろう。斬新なアイデアは出せなくても、そのアイデアを理解し、吟味し、フィードバックできる個でありたいし、そういった個を増やさないと社会としてレベルが低迷してしまうのではないだろうか。