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『氷点』三浦綾子

 私の心は凍えてしまいました。陽子の氷点は、「お前は罪人の子だ」というところにあったのです。私はもう、人の前に顔を上げることができません。どんな小さな子供の前にも。この罪ある自分であるという事実に耐えて生きていく時にこそ、ほんとうの生き方がわかるのだという気も致します。
 私には、それができませんでした。残念に思いますけれども、私はもう生きる力がなくなりました。凍えてしまったのです。

『氷点(下)』朝日新聞社, 2007, pp.319-320


雪の匂いがある。

静謐で静かな匂い。

この作品が書かれた1964年ころとは比べ物にならないかもしれないけど、いまも北海道の冬は寂しく、厳しく、美しい。


生まれてこの方、北海道に暮らしている。

共感できるとか、わかるといってしまえば安易かもしれないけど、三浦綾子の小説から立ち上る匂いはまぎれもなく北国の匂いで、それにとても心安らぐ。


三浦綾子の代表作ともいえる本作を初めて読んだ。

なぜか本作を読まずに他の作品から読み始めてしまったので読むタイミングを失ってしまっていた。

「赦し」と「神」は本作にとどまらずとも三浦の作品を貫くテーマだと思われるが、本作ではその原点が見えたような気がする。

しかも、その原点は温度を伴っている。

引用したところからも読めるような、暗く冷たく美しい温度。

それは、人間の心と北海道の自然のもつ温度の共通するところなのだと思う。

三浦が暮らしていたというだけでなく、本作の舞台は北海道、それも旭川でなければならなかっただろう。


本作が描かれたのはたった数十年前であるにもかかわらず、私たちを取り巻く景色は文明レベルでも自然のレベルでも大きく異なるだろうが、それでも自分がその中にいるかのように浮かび上がってくる匂いと景色がある。

その景色と人間感情の追体験、それが三浦綾子の作品に惹かれてやまない理由なのかもしれない。


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