第3回 「遅れていたら手を差し伸べればいい」
「誰ひとり取り残さない」。正直、ただの綺麗ごとだと思う。どこを基準に「取り残さない」のか。みんなが平等に立つことは不可能だ。
人は比較によって幸・不幸を感じる。例えば、現在一日一食食べられるかどうかの生活をしていた人が、SDGsの達成目標年である2030年に、三食(主食+おかず)食べられるようになったとしよう。しかし、もしも近くに主食+おかずに加えて、デザートを食べている人がいたら「自分は不幸だ、貧しい」と思ってしまうはずだ。
この地球に住む人類の生活の底上げ、もしくはレベルの異なる階層のギャップを埋めることは可能だろう。人々全員の生活が改善されているのだから、それは間違いなく「誰ひとり取り残していない」と言えるだろう。しかし、上記のような状況が生まれる中で、果たして底上げされたヒエラルキーの下にいる人たちは満足するだろうか。貧困の問題だけではない。障がい者やジェンダーの問題も同様だ。
バリアフリー化が少しずつ進んでいるが、既存の建物の中には一度取り壊さないとバリアフリー化できない建物は数えきれないほどある。建物の持ち主や既存利用者、周囲の人々など影響を受ける人が多く、実行は難しいだろう。実際に私のバイト先である飲食店は地下にあり、狭い階段を降りないと入店できない。一方で、デジタル化は急速に進んでいる。メタバースといったウェブ3.0と呼ばれるものまで普及しつつある。メタバース空間では障がいの有無は関係なく楽しめる。しかしそこで現実との比較がされ、ギャップに強く気づき、ショックを受けてリアル世界を拒否する人も生まれる可能性があるのではないか。また、知的障がい者や一部のお年寄りはデジタルについていけない。もちろん教育をすればいいのだろうが、私の祖父母のように「難しいからいい」と拒否する人は少なくない。それを「誰ひとり取り残さない」ために無理やり教えるのか。きっとメタバースが普及すればその中でしか得られないメリットも増えてくる。この状況で、デジタルにアクセスしたくない人たちは「取り残されていない」と言えるのか。
さらにジェンダーの問題でいうと、女性が守られる風潮が強くなりすぎて、男性の肩身が狭い世界になりつつある。私の知り合いにも、電車内では絶対に腕を組む、ハラスメントを恐れて慎重な言葉使いをする、といったエピソードを聞く。彼らに悪気がなくても受け取る側が嫌だと感じれば、それは犯罪になってしまうからだ。人種問題に関しても、黒人対白人の対比で、同様の、加害者が被害者になる構造が見られるだろう。
ここまで批判してきたが、私はその野望を持ち続けることはすべきだと思う。私は、2021年3月からの14か月間、東アフリカに滞在した(内訳は、ウガンダ9か月、ルワンダ3か月、ブルンジ1か月、ケニア1か月)。渡航前、「地球市民」というワードが漠然としすぎて私はあまり好きではなかった。しかし、実際に遠い大陸であるアフリカに行ってみて、そこにいる人々と生活してみて、改めて「同じ人間なんだ」と感じた。みんな何かを目標に生きているし、誰かを守るために生きているし、楽しく生活するために生きている。そして、何もできないただの大学生である私を、一友達として、家族として、みんなは受け入れ助けてくれた。それをみんなは、「助け合うのは当たり前でしょ」と言っていた。だからこそ、みんなからも金銭的だったり人脈だったりのサポートを求められたが、それは支えあうのが当たり前だからだ。
同じ地域内の4か国に行ったが、隣国同士、地域ごと、民族ごと、個人でも問題は異なり、かつレベル感もかなり違った。さらに、まだ見えていない不条理や問題・格差があるはずだ。それを国際的に解決していくのは難しい。私ができることとして考えたのは「伝える」こと。現在、絶賛就活中で記者になろうと奮闘している。将来的にはフリーの国際ジャーナリストとして、世界中にある小さな問題を掘り起こして発信していきたいと考えている。無知は無意識な無視かもしれない。だが、知る機会がなければ知ろうとすることもない。私は伝えることでその場を設け、読者(視聴者)に知って・自分事化してもらい、生活の中で少しでも地球という同郷をもつ誰かの事を想う時間を作ってもらいたい。そうすれば、日常の中で地球市民のために何ができるかを考え、どんな小さなことでも実践するようになるはずだ。
私は「誰ひとり取り残さない」世界ではなく、「地球市民みんなで前に歩んでいく」世界を目指したい。東アフリカで出会った私の仲間たちが考えているように、同じ人間として当たり前に助け合う社会であれば、遅れている誰かに誰かが手を差し伸べるだろう。
2022年度(22歳)第3回 SDGs「誰一人取り残さない」小論文コンテスト
結果:入賞
【募集内容】
SDGsの基本精神「誰一人取り残さない」について、思うことや心がけることなどについて、500文字から2,000文字程度での日本語での小論文を募集。
【実施団体】
野毛坂グローカル
途上国・日本の地域の学びあいによる共生コミュニティづくりを目指すNGO