ダンドーラごみ処理場
ここは、ナイロビ北東部のダンドーラという地域にある、ケニア最大級のごみ処理場です。*¹約12ヘクタール(東京ドーム2.5個強分)の面積があり、毎日*¹2000トンほどのごみがナイロビ中から集まってきます。
今回、ダンドーラごみ処理場を訪問する機会があったので、そこで学んだことや考えたことをまとめています。この地域をよく知るケニア人のDさんに案内してもらったので、この文章は彼や彼の知人にもらった情報を元に作成しています。
ゴミ山といえば、フィリピン・マニラ市にあるスモーキー・マウンテンが有名です。ダンドーラとスモーキー・マウンテンは似ていますが、大きく違うのはフィリピンでは人がたくさん住みスラム化している一方で、こちらでは住んでいる人は多くないという点です。しかし、ダンドーラごみ処理場には2000人から5000人いると言われています。どういうことかというと、みんな仕事のためにこのごみ処理場に通っているのです。
Dさんによると、労働者たちは毎朝日が昇る少し前の5時ごろから出勤してきます。日が照っていない、ゴミ集めのしやすい時間から作業を始めるのです。そこからペットボトルや缶、古紙などその人が担当しているものを集めていきます。ごみ処理場に集まってきているためここでは「ごみ」と呼んでいますが、彼らにとってはごみではなく「商品」なのです。彼らにかかればどんなごみもお金を生む宝になってしまいます。
ゴミ集めの仕事と並行して、それらを販売する仕事も行います。彼らはごみを集めてそれをどこかに持って行って売ることはなく、集めながらその場で売るのです。そのため、購入したい人がここに来るのが暗黙のルールとなっています。全てキロ単位での売り買いであり、私がその場にいる人から聞き取りをしたところ、ペットボトルキャップはキロ当たり50sh(約50円)、缶はキロ当たり100sh(約100円)でした。集めたごみは個人間での取引に加えて、リサイクル工場にも販売されます。工場と取引している人はトラックを持ち、従業員も抱えて大規模に働いています。
Dさんによると、組織化している人など、よく稼げている人は一日600sh(約600円)稼ぐそうです。10年前のものと古いデータですが、*²2012-2013年度のケニア全国家計調査によると、ケニア全体の月収の中央値は7,000sh、地方は5,000sh、都市部は13,000shです。またナイロビにある日本人レストランの従業員の月給は20,000shと聞きました。つまりダンドーラでよく稼ぐ人の月収18,000sh(600sh×30日)はかなりいい額だということです。集めて売るだけのため、支出がなく働いた分だけ得られるのはこの仕事の最大のメリットだそうです。
この敷地内には人間に加えて鳥と豚もたくさんいます。こちらの鳥はアフリカハゲコウというコウノトリの一種で、スカベンジャー(腐肉食)の野生鳥です。一方で、豚の方は家畜で、飼い主が毎朝連れてきて、生ゴミを食べさせているそうです。生ごみは腐って有害物質を含んでいたりするので、豚にとってもそれを将来的に食べる人間にとっても危険ですが、経済的に貧しく、豚に餌を与える余裕がない方々が少なくないのです。
このように、ダンドーラごみ処理場には、商品を作る材料やリサイクルのために買いに来る人、その人たちに売る人、売り買いの仲介をする人、加えて動物など、たくさんの生き物がいます。しかし、そこに寝泊まりしているのではなく、多くが外から働きに、もしくは食料を求めて来ています。
先述したようにゴミは有害物質を発するため、住んでいないとはいえ長時間そこに滞在するのは健康に害を及ぼしてしまいます。また、再利用できないものは、中心部にある穴に最終処分場に捨てられます。ここは治安も安全面もかなり危険なエリアだそうで、私は遠くから見るのも止められました。そんな危険と隣り合わせの場所で生活することを選択「できる」状況を生み出しているのは格差や高物価、社会システムだと思います。さらに現在は、コロナやウクライナでの問題によってさらに物価が上昇し、私が訪問した2022年4月には周りから苦しい声がたくさん聞かれました。
だからといって外から支援をすればいい、寄付をすればいい、という簡単な話ではないと思います。苦しんでいる人が取り残されてしまっている状況を変えないと、一時しのぎにしかならず、問題自体は解決しません。これを外国人がどうこうするのは難しいし、国内の問題のためあまり深く干渉すべきではないと思いますが、問題を減らしたり緩和したり阻止したりすることはできるのではないでしょうか?
大きな問題で言うと地球温暖化です。私が出会った東アフリカの人々は、みんな地球温暖化の影響を大きく受けていました。農業で生活している人が多いのですが、気候変動で天気が読めず、農業のルーティンが崩れてしまったそうです。そのため、せっかく植えた作物が無駄になってしまうことが増えています。また、ケニアには乾燥地帯が多いですが、その地域でもともと限られた期間でしていた農業も、土地が干からびて難しくなってきているようです。雨も極端に降ったり降らなかったりするので安定して水を手に入れることもできません。私たちの生活の仕方を見直せば、塵も積もれば山となって、一分でも一秒でも温度上昇を遅らせることができます。
また貿易も、国の経済や人々の生活に関わってきます。質の悪いものを押し付けるようにしてアフリカに輸出する企業や、現地に利益があまりいかない形で現地の資源を使って生産する企業も中にはあります。前者に関しては、私が関わった東アフリカの人々も少し高くてもいいから質の悪くないものが欲しいと言っていたため、長持ちする(何度も買いなおさずに済む)ものを売る企業に入っていってほしいし、後者に関しては消費者が「この商品」を売っている会社は「どんな会社か」ということにもっと関心を持つことで改善できると思います。
日本では苦しんでいる人が見えづらいために取り残される人々がいる状況がありますが、ケニアでは裕福な人々と貧しい人々の生活環境が綺麗に分かれていて、道端ではストリートチルドレンや物乞いの人によく会うため、むしろ生活の中でその格差を感じます。
私もその格差を見て、またストリートチルドレン達にお金や食べ物を求められて、自分に何ができて何をするのがベストなのか分からなくなりました。でも何かしら実行に移すことがまず大事です。私が出した今のところの答えは上記の2つなので、それを実行していきます。
何かを寄付したい場合は、私は、現地で活動していて信頼できる団体に寄付をするのがいいと思います。現地でその地域の人々に密着して活動している団体なら現地のニーズをよく知っているので、その人々に直接利益が還元される形で使ってくれます。直接支援をしようとすると、いらないものを送ってしまったり、関税などで向こうにお金を払わせることになったり、寄付が仲介者に悪用されたり、といった問題をよく聞きます。その地域で活動している団体をよく調べて、信頼できると思ったらそこにお金かもしくは相談の上モノを送ればいいのかなと思います。
ダンドーラごみ処理場で働いている人々は、その生活を「選んで」いますが、他と比較して相対的に選択していて、決して積極的なものではありません。こういった生活が選択していかなくていいような社会に、日本も含めて、なっていくよう頑張りたいなと思います。
*最後に
今回私は、あるケニア在住日本人がダンドーラごみ処理場の近くに住む方を紹介してくださったことで、訪問が可能となりました。ナイロビには治安が良くないエリアが多いですが、この辺りはスラムでもあるためかなり危険な地域です。Google mapなどで調べれば行けてしまいますが、この地域を知っている人の案内なしには絶対に行かないでください。もし安全な条件で訪問が可能になったとしても、十分身の安全を考えた行動をしてください。
参考
*ダンドーラごみ処理場近くの住人・労働者からの情報
*1 Life in a Kenyan rubbish dump: Illness, poverty afflict community (Aljazeera、 2019年2月3日、https://www.aljazeera.com/gallery/2019/2/3/life-in-a-kenyan-rubbish-dump-illness-poverty-afflict-community)
*2 2012/2013 Kenya national housing survey (Republic of Kenya, https://statistics.knbs.or.ke/nada/index.php/catalog/47/download/186)
*A day in the life of a worker at Dandora, Nairobi's main dumping ground(RFI、2022年4月17日、https://www.rfi.fr/en/africa/20220417-a-day-in-the-life-of-a-worker-at-dandora-nairobi-s-main-dumping-ground-kenya)