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埋海

ちょっと離れただけで君の音はぐんと遠ざかる。
思い出なんて思い出すものじゃなくて忘れてくものなんだ
思い出って名前を付けたものは全部失くしちゃって
思い出せないあの海のことばかりが気にかかっている。


思えば君は海が好きだった。
何かあると直ぐに海を見に行って何かを言い聞かせていた
僕はというとそんな君の横顔を見ていたくて海に君を運んでいた。


水を両手ですくっても水は直ぐに指の間からするりとこぼれてしまうから。
こぼれていくばかりで掴めないなと君は笑っていた
こぼれる夏の音と匂いが僕らの五感を伝ってこころに馴染んでいく
滲んだ景色が君を連れて行ったあの三日間という短な時間を忘れられないようにと記憶に刻もうとしている。


「うみがみたい」と君が呟いたから
僕は君を助手席に乗せてウミ迄旅した
ウミを見たキミはまるでナミみたいに涼やかな声で僕の名前を呼んだのだった


僕はあの日のナミをずっと忘れられずに居る。


あの日差しの下で輝いていた二人のウミを写真のような音のない記憶だけが憶えている。




【記憶の中の夏】――――埋海

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