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90年代後半から露骨に変わり始めた「力」と「ドラマ」の関係を考察!なぜ黄金色のパワーアップは90年代が最後だったのか?

ゼクス、強者など何処にもいない!人類全てが弱者なんだ!俺もお前も弱者なんだ!

『新機動戦記ガンダムW』をかれこれ3回目の再視聴となったのだが、ある意味でいえば「Gガンダム」と本作を持ってガンダムシリーズにおける「強さ」の表現は描き尽くしたと言える。
ヒイロの最後のセリフ、そしてリーブラ落としを防いだウイングゼロのあのラストから見るに、「ガンダムW」は実は「エヴァ」よりも遥かに遠くを見つめて作られた作品ではと改めて思えた。
ほんと、「エヴァ」なんか見るくらいならこっちを見た方がいいと思ったのだが、実はアニメ・漫画において金ピカ色にパワーアップするという表現方法は90年代を最後にあまり見られない。
もちろん、スーパー戦隊シリーズや仮面ライダーシリーズなど一部の作品では00年代以降も金ピカパワーアップはあるのだが、それも90年代前半までに比べるとどうしても陳腐な印象は否めないだろう

「ガンダムW」の終盤の流れを大雑把にまとめると、要するにヒイロたちガンダムチームとOZとの対立という前半に見えていた対立の要素も何もかもが無意味になってしまったわけだ。
地球連邦もロームフェラ財団もサンクキングダムも、国家・共同体が崩壊し、重いと思っていたものが実は軽くなり、代わりにリリーナ・ピースクラフトが完全平和主義の使者として立ち上がる。
そんな中でヒイロとゼクスの対決を通して、ヒイロは「人類はすべて弱者」であり、結局のところはMSだとかなんだとかの技術で作られたものに依存して強者足らんと自分を武装しているに過ぎない弱者だと指摘した。
だからウイングゼロもエピオンも、ゼロシステムもエピオンシステムも「手段」であって「目的」にはなりえず、とうとう「Gガンダム」がラストで肯定した「戦い続ける」という結末を否定したようだ。

そして後日談の「Endless Waltz」では5人とも自分のガンダムをすべて爆破してそれぞれの日常へと回帰していくのだが、ここから1つ大きく「力」と「ドラマ」の関係性は変わってきた。
『ドラゴンボール』が典型だが、結局のところ「超サイヤ人」を最後にジャンプ漫画で金ピカのパワーアップは無くなったし、ガンダムシリーズでもドモン・カッシュが獲得した明鏡止水を最後に金ピカパワーアップはない。
「ガンダムSEED」以降になると、ガンダムにおいては力の発露が決してドラマたり得なくなっており、例えばSEEDに覚醒したところでキラやアスランが己のヒーロー性を高めることができたかというとそうではないだろう。
むしろ、パワーアップすればするほど敵側から脅威として認識され狙われるようになってしまい、キラはクルーゼとの戦いで自分の一番大切だったはずの急所であるフレイを失ったことでその精神は拠り所を失ってしまった。

これは最近改めて教えられたことなのだが、「真に賢いやつは「勝つ戦い」ではなく「負けない戦い」をする。決してNo.1になろうとせず、No.2か3くらいをキープし続ける」という。
なぜかというと、1位になってしまうと、頂点に立ってしまうとそれを維持し続けるのは極めて難しく、それを狙って次々と強敵を作ってしまうことになるのだそうだ。
実際これはその通りであり、『ドラゴンボール』でも悟空が最終的に帝王フリーザという宇宙最強に勝つほどの力としての「超サイヤ人」を手にしたのだが、そのことがまた厄介な敵を引き寄せてしまう。
それこそが人造人間やセル・魔人ブウであり、悟空は戦えば戦うほど強くなる自分に欺瞞すら感じてしまい、段々と本来やりたい「強くなる為に腕を競う戦い」というのができなくなってきた。

超サイヤ人2、3と化け物じみた強さになればなるほど悟空は孤独たらざるを得ず民衆からは遠退いた存在となり、誰と戦っても楽しくないという状態が続いていたのである。
ベジータは悟空を「負けない為に戦う」と言っていたが、それができていたのは天下一武道会編までであり、サイヤ人編からはとにかく「勝つための戦い」を要求されるようになった
悟空の顔は真剣味を帯びた代わりに「純粋さ」「屈託のない笑顔」が失われていき、「負けない戦い」ができなくなって超サイヤ人をどれだけ極めても楽しさがそこにはない。
つまり、悟空の「ワクワクすっぞ」という「強いやつと戦える幸福感」は強さと比例しなくなり、最後は決して普段の自分ならやらないであろう元気玉を使ってみんなでGOという情けない結末に終わってしまった。

ちなみに『ドラゴンボール』後期のダメなところが露骨に出ていたのが実は『超力戦隊オーレンジャー』であり、あの作品ではどれだけパワーアップしてもそれが面白さやドラマにはなり得ない
いやまあ元々の設定が酷かったというのはあるにせよ、90年代後半に入るとあらゆるバトル物のジャンルにおいて「力」を手にすることが「ドラマ」として成立しなくなってきている。
そんな「強さのインフレ」の歴史にある種一石を投じたのが本作のヒイロであり、故にこそ私は「ガンダムW」こそが真の意味での「ガンダムシリーズの終焉」を意味するものであり、「X」以降はその資産をいたずらに食い潰しているだけだ。
「ガンダムW」でヒイロたちがなぜ負け続けに負け続けて勝つのが最後なのかというとそういうわけであり、なんでも完璧にできる5人だからこそあえて苦戦・苦労するドラマを設けて簡単に勝たせなかったのだろう。

もしも最初から最後まで「W」がただ天才少年たちがガンダムで無双し続けるだけだったらそれは今風にいう「なろう系」「異世界転生」と何も変わらないし、実際「ガンダムSEED DESTINY」の後半のキラはそれだった。
戦闘力とは現実で言えば経済力=資産形成の力と言っても過言ではないのだが、収入と幸福度の相関関係は実は対数関数のそれであり、収入が増えると一定のところで頭打ちになってしまい、幸福度は上がらなくなるという。

限界効用逓減の法則

いわゆる「限界効用逓減の法則」であり、ヒイロたちは確かに目に見えて強くなってはいくのだが、強くなればなるほどヒイロたちはかえって戦うことに虚しさを覚えるようになる
強くなることが事態の収集を促すわけでもないどころか、むしろ新たな火種を生んでしまうからであり、それを子供向けとしてさらにうまく集約したのが『星獣戦隊ギンガマン』第十七章のリョウマと勇太のやり取りだ。

「リョウマ……僕、戦士になりたいんだ!リョウマや星獣たちが戦ってるのに、見ているだけじゃ駄目だよ!でも、無理だよね。……アースも使えないし、剣も出来ないし」
力や技だけが、戦士の条件じゃないよ
「なんで?戦士にはそれが一番大事でしょ?」
「うーん……ただ暴れるだけならな。けど、戦士に必要な、強さや勇気は、そこからは生まれない

このやり取りはストレートに受け止めれば「カなき正義は無能であり、正義なき力は圧制である」の言語化だと思っていたしそう感想にも書いたが、最近特に強く思うのはそれだけではない。
要するにリョウマは「力なんかある程度手にしてしまったら、それはもう戦士としては「あって当たり前」になってしまい、それが戦士の資質を決して支えるものじゃない」ということだろう。
実際、超富裕層のレベルになるとお金を持っていることそのものに大した価値は感じず、大事なのはそのお金をどういう風に使うか?というところの話になるらしい。
これはあくまでも戦闘力=経済力のインフレという昭和時代を経験し、それが崩れてしまった平成が「力」というものをどう捉え直すのかということをやっていたのだろう。

だが、根本的な疑問もまた生じてしまうのだ。
4軍団は、そんなに力の差が大きかったのか?
(中略)
つまり、今のギンガマンは戦力自体は増強されているくせに、総合戦闘力において、先代より弱くなっているとしか考えられないのだ。

「ギンガマン」を語る時に、一部のノイジーマイノリティが批判点として鷹羽が書いたこの件をろくすっぽその意味を考えもせず馬鹿の一つ覚えのように鵜呑みにし、まるで惹句のように使っている風潮に私は一切同調できない。
そもそも「ギンガマン」という作品においてはどれだけ強化の手段を得たところでそれはあくまで「手段」でしかなく、ギンガマン5人の直接的なパワーアップを意味するものではなくなっているのだ。
星獣剣も機刃もギンガの光も全てはそれ自体が決してドラマたり得るのではなく、そもそも最初から敵組織の最強はゼイハブとダイタニクスと決まっている以上、4軍団の力の差なんて精々誤差のレベルだろう。
リョウマが言っているように「力や技だけが戦士の条件じゃない」のだし、そもそもバトルモノとして安易な強さのインフレの価値観しか持っていないとこういう誤謬を生み出してしまうのではないか。

髙寺成紀も小林靖子もその辺に決して無知だったわけがなく、「メガ」までを踏まえた「ギンガマン」ではリョウマたちがそもそも最初から完全に出来上がっているプロ中のプロだからこそ、パワーアップが強さの表現に直結しない工夫をしているのだ。
確かに昔はただ強くなることが勝利への近道だったのだが、「ガンダムW」ですでにそれは否定されていたどころか、むしろ30年もの未来を見越していずれこういう時代がやっていくることを描いていた。
令和の今、まさに従来の強さはどんどん崩れ始めて国家も財団もあらゆる共同体が崩壊の兆しを見せているのだが、逆に言えばもう国家に個人が依存できない時代に来ているのである。
その中で「力」について、そして「強さ」についてきちんと考え抜かなかったら、間違いなく時代の流れと共に淘汰されていく。

不思議なものだが、私にとっての『新機動戦記ガンダムW』とはそういう作品。

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