『新テニスの王子様』最新号感想〜いかにして「同調」「能力共鳴」のその先を描くのか?が課題であるD1〜
さて、「新テニ」の最新号を一通り読み終えたので早速感想なんですが、何というかあまりにも普通にテニスしています。
いやまあ旧作の全国決勝でもそうだったんですけど、旧作にしろ新作にしろ、許斐先生のテニスの描写って結構変則的です。
いわゆるジャンプ漫画お得意の「強さのインフレ」の伝統に沿っているようでいて、積極的に「強さのデフレ」もさせてきます。
とにかくはちゃめちゃな超人バトルを描いたと思えば真っ当なテニスを描いたり、そうして普通のテニスに戻ったらまた今度はテニヌになったりしているのです。
準決勝もそうだったんですけど、あれもS2とD1が比較的真っ当な王道のテニスなのに対して、残りの3試合がとんでもない超異次元バトルじゃないですか。
特に平等院親方VSボルクはとうとう『ONE PIECE』『パイレーツオブカリビアン』ばりの海賊バトル漫画へと変貌しましたからね、演出上のこととはいえ。
何せコートに竜巻が発生しまくる中を掻い潜って返球とかそういうレベルになっているので、この次元をまだ超えることはできていません。
というか、ドイツ戦がここまではっちゃけてくれたからこそ、決勝のスペイン戦は何が来てもおかしくないという土壌を作り上げているのは流石です。
その上でこのD1ですが、前回いきなり卓球ばりの高速テニスを見せたと思いきや、今回は翻って普通のテニスでした(笑)
え?全員同調している時点で十分にテニヌ?2m超えの高身長であんなビッグサーブ撃てる時点で人外?
いやいやいや、現実の野球界でも大谷選手のような化け物クラスの天才が出てきてることですし、今更同調を標準装備で見せられた程度で誰も驚きはしないでしょう。
だってシングルスでは天衣無縫の3つの派生とその天衣無縫対策の技も出てきていますし、ぶっちゃけダブルスの同調や能力共鳴はもうここに来るとできて当然くらいに思えます。
まあ嬉しかったのは黄金ペア・九州二翼などの中学生ダブルスペアをしっかり入れてきたところで、今後彼らにもまだまだ可能性があるのを示したことはいいところです。
23.5巻でも「機会があれば次は九州二翼も描きたい」と言っていましたし、氷帝も鳳と宍戸はまだ同調を開眼していませんから、ちゃんと細かいところを拾ってるのはいいでしょう。
その上で今回はサーブ対決でしたが、越知先輩の弱点が「高速サーブをリターンされたら危ない」ってそれもう乾先輩や鳳たちが既に旧作で通ってきた道じゃないですか。
ダブルスパートナーの毛利がうまくそこをカバーしてくれるからリターンされても弱点にならないというのは今更すぎる気もしますが、同時にその高速サーブ対策もちゃんとしているフリオとバンビペアも素晴らしい。
マルス姐さんの狙撃を返球できるようにすることで越知のサーブ対策にするというのはこれまでの流れを踏まえて「なるほど」という感じですが、それにしてもここまでD1はあまりにも普通にテニスしています。
一体何を許斐先生は描きたいのかという話ですけど、D2との違いは「ダブルスのダブルスたる所以」を再定義することにあるのかなと。
これは個人的見解ですが、ダブルスって「テニスが上手いもの同士」がコンビ組んだら最強という物ではなく、「シングルスだと不完全でもダブルスを組むと相性100〜120%」という物だと思うのです。
言うなれば手塚と不二がダブルスを組むよりも黄金ペアが組んだ時こそ最強というのがあるわけですし、それは氷帝の鳳宍戸ペア、九州二翼、丸井ジャッカルペアもそうでしょう。
毛利は言うなれば菊丸や丸井の上位互換であり、越知先輩が乾や鳳の上位互換という感じで、それぞれ単独だと弱点があれど組むことでそれをカバーして最強になれるというものです。
D2の遠山金太郎と大曲先輩はどちらかといえば「高校生が中学生を導く」という意味合いが強く、あまりダブルス感はなかったのですが、今回はしっかりダブルスとは何かを描いています。
どうしてもシングルスの派手さばかりが目立ちがちな最近のテニヌの中で、こういう細かいけれど大事なエッセンスを拾い直して深めてくれるのが許斐先生の細かい目配りが行き届いていますね。
その上で今回は1-1で引き分けという感じですが、「ダブルスの可能性」を今後どう見せていくのか?が課題ではないでしょうか。
具体的には天衣無縫に3つの精神派生があったように、「同調」や「能力共鳴」にも派生系や「その先」があるかもしれません、いわゆる「阿頼耶識」のような。
越知毛利ペアって単なる日本最強ダブルスというだけではなく、中学生のダブルスペアがこの先目指すべき憧れの存在であると同時に、まだまだ「進化し続けるペア」でもあるのです。
だから「完成形」ではなく「未完成」で伸びる余地を残していますし、同時にこの試合を単なる「S2までの繋ぎ」にしないように描けるかというところにあるでしょうね。
旧作の全国決勝D1は最初から「黄金ペアが勝つ」ことは決まっていて、あとはいつ同調を出して勝つかという時間稼ぎで、試合自体は盛り上がりがありませんでした。
まあ不二と仁王の詐欺対決を描いた後で盛り上がるダブルスを描けというのが難しいかもしれませんが、あの試合は許斐先生にとっても心残りだったのかもしれません。
だからこそ、「新テニ」ではS2の冒頭で天衣無縫を食わせて南次郎との決別を描き、その南次郎が倒れるところで動揺させ掻き乱しつつ、D1を先に持ってくるという展開にしています。
徹底的に読者に先を読ませないようにということでしょうが、それ以上にこのD1をどれだけ盛り上げられるかが許斐先生にとっての旧作のリターンマッチでもあるようです。
その上でダブルス組が「同調」「能力共鳴」の先を切り開き、S2のリョーマとS1の徳川先輩がそれぞれに新境地を開拓、という展開になるのではと予測しています。
許斐先生はこういう盛り上げどころは基本的に外さない人ですから、たとえ一時的にガッカリさせてもちゃんと拾うべき要素はしっかり拾ってくれますから。
とりあえず、ダブルスでいわゆるフュージョンやポタラ合体みたいなことにならないことを祈ります、許斐先生なら本気でやりかねないので(笑)