今更ながら3年前の倉田てつを氏の炎上とファンの混同に纏わる問題について
そういえば、『忍者戦隊カクレンジャー』30周年の同窓会フィルムに関して私はオリジナルの役者の劣化について述べたが、これは何も今に始まったことではなく2011年の『海賊戦隊ゴーカイジャー』やそれ以前の『百獣戦隊ガオレンジャーVSスーパー戦隊』でも思ったことだ。
かつて仮面ライダーなりウルトラマンなりスーパー戦隊なりで出演した元ヒーローの役者が時が経ってそのシリーズの新作に客演という形で登場する、これ自体は昭和ウルトラ・昭和ライダーの時代からあったことであり、それ自体は何も問題はない。
しかし、その再登場した役者たちが現役時代のキャラのイメージを損なわずに演技が出来ているならともかく、時が既に経って明らかに現役の頃の輝きを失いもうそのヒーローには見えない場合は見るに堪えない。
その典型が2016年に白倉伸一郎・井上敏樹を中心にリメイクした『仮面ライダー一号』という映画であり、あれに関してはもはや「本郷猛」ではなくただの「年老いた藤岡弘、」でしかなく、評価を書くのも躊躇われるほどに恥ずかしかった。
だから、「カクレンジャー」の30周年で明らかに歳を重ねて現役の頃より輝きや魅力が損なわれている人に対して「30年経っても魅力的です!」などとお世辞やおべっかを並べ立てているファンの発言を見ているともっと恥ずかしくなる。
ヒョウ柄が似合う若作りしたけばけばしい大阪のおばちゃんを見て「よ!お姉さん、若いですねえ!」なんて褒めるようなものと大差ないことであり、よくもまあ心にもないことを平気で言えるものだと思えてならない。
私が「カクレンジャー」という作品の30周年を見ないのは東映特撮ファンクラブに再入会するコストが勿体無いのはもちろんだが、私の中の「カクレンジャー」はあくまで1994年のテレビシリーズしか評価の対象にはしていないからである。
そもそも「オトナプリキュア」もそうだが、ああいう同窓会フィルムを何の恥じらいもなく嬉々としてやって身内ノリでやっていることに何らの生産性も創造性も知性も感じない以上見る必要は全くない。
さて、そこでというわけではないのだが、そのかつてヒーローを演じた役者の失言で炎上したという珍しいケースが3年ほど前に起こったのを皆さんはご存知だろうか?
言うまでもなく『仮面ライダーBLACK』『仮面ライダーBLACK RX』の南光太郎役を演じた倉田てつを氏のインスタライブでの「俺仮面ライダー好きじゃねえし」発言であり、ファンの皆さんは相当にショックを受けてSNS界隈が荒れたのは記憶に新しい。
本人は「酒に酔った勢いで」とあるが酒に酔った勢いで出るものこそその人の本音・本性を表すわけだから、決してお酒が原因だったのではなく倉田てつを氏個人は「仮面ライダー」に対してその程度の思い入れしかないということだろう。
そのこと自体は大きな問題ではないし問題の映像を見ても「もう少し言い方に配慮すればいいのに」とは思ったが、別にヒーローを演じた役者が内心どう思っていようが私にとってはどうでもいい話である。
ではなぜ倉田てつを氏のこの「好きじゃない」発言がここまで大事になって炎上したのかというと、大きく分けて理由は3つある。
1つ目は倉田てつを氏自身がその『仮面ライダーBLACK』『仮面ライダーBLACK RX』の商標を東映並びにバンダイに無断で使用し、ファン・オタクから毎年お金を巻き上げる活動をしていたこと。
2つ目にテレビや雑誌のインタビューでこれまでの氏は「南光太郎」として役のイメージを崩さない好青年然とした立ち居振る舞いをしたのに、急に三下のような言動をしてしまったこと(要するに「ゲインロス効果」)。
そして3つ目に発言をしたタイミングが仮面ライダー50周年という記念すべき年であり、また『仮面ライダーBLACK SUN』という新作が決定してファンが盛り上がっていた中で水を差すような発言をしてしまったこと。
そうした諸々の要因が重なった最悪のタイミングであの発言をしてしまったのがきっかけとしてあれだけの炎上に繋がったわけであり、特に1つ目に関しては以前からその悪質性をファンから指摘されていた。
もちろん過激な発言やヒールのような振る舞いをしても許される人はいる、例えばひろゆき・ヒカル・シバターのように偽悪的な忖度なしに物を言うスタイルが様になるような人なんかはまさにその典型だろう。
しかし倉田氏はどちらかといえばその真逆の根は真面目な好青年系の人物として売っていたわけであり、実際はわからないが少なくとも表向きのパブリックイメージはクリーンな人柄で通していた。
そのイメージを自ら損なうようなことをしてしまい、しかもそこからの信頼回復になるようなこともしてきたわけでないが為に、今もなおかつて倉田氏並びに彼が出演したファンの失望は大きいようだ。
以前に前原一輝と西岡竜一朗、金子昇の鼎談動画を述べたことがあるが、あれもあくまで大前提として「ギンガマン」「ゴーゴーファイブ」という2作品並びにそのレッドのヒーロー像が印象的という大前提がある。
逆にいえばそれを抜きにした役者個人のことなんか興味もないし、またその元ヒーローだった役者たちに会おうとか、役者たちが開くイベントに行こうという気も私の中にはない。
だから倉田てつを氏のことをやたらに叩いている人はおそらく彼のお店に行き、ファンとして彼の推し活を続けてきて今回の失言で裏切られたという思いをした人たちなのではなかろうか。
ましてや2年連続で仮面ライダーを演じており、歴代でもファン人気が異様なまでに高い作品の主人公ともなればそれだけコアなファン層は厚いであろうし。
ただ、この炎上で明らかになったファンの認識と役者との関係性の問題、すなわち「役と素の混同」並びにそのファン心理を作為的に利用した詐欺にも近い搾取の関係性が挙げられる。
それこそ以前に少しだけ話題にしたが、プリキュア声優の榎本温子氏もそれに近いことをしていて、聞いた話ではゲーム実況配信の為にファンから「クラウドファンディング」という形で50万近いお金を巻き上げて新しいPCを購入したらしい。
何が「クラウドファンディング」だ、自分にお金を落としてくれるファンの心理を巧みに利用して個人的な目的に利用しただけだろうとウンザリしたわけだが、倉田氏が長きに渡り行っていたこともこれに近いだろう。
西野亮廣によってその名前が知れ渡った「クラウドファンディング」だが、なぜ当時あれだけ批判したのかというと、そのやり口が倉田氏や榎本氏のそれと根本的に変わらない「信者からの搾取」に思われたからだ。
そもそも倉田てつを氏といい榎本温子氏といい、そんな彼らにお金を落としているファンといい、そもそもその人気と需要は決して役者個人の力ではなく東映という大会社の有名看板シリーズあってこそのものというのをわかっているのだろうか?
あくまで大事なのは「作品」だから俳優・声優の演技力も必要だがそんなものは重要度でいえば精々20〜30%程度、後の70〜80%は東映特撮・アニメのプロデューサー・脚本家・演出家・作曲家・スポンサー・放送局の営業や宣伝広告の力である。
要するに芸能界やYouTubeと同じでプラットフォームが優秀なだけであって、所詮はその優秀なプラットフォームの上で祭り上げられている神輿に過ぎないわけだから、その神輿に乗っからせてもらっているという認識を持つことが大切だ。
そこを分かった上で本当にその有名人のためにお金を支払うことが有意義なことなのかどうかを真剣に考えなければ、利用・搾取される一方的かつ不健全な関係性の構造から逃れられないままである。
以前に見つけたアイドルと運営・ファンの構造を風刺したイラスト(元ネタはいうまでもなくA○B)だが、これは決してアイドルだけではなく特撮・アニメの役者とファン、運営側も似た構造だと理解しておくべきだ。
これは私の学生時代の恩師が言っていたのだが、「権威があって上の立場に立つ人間が何の目的もなく下層に降りてくることはない。あるとすればそこには何かしらの裏がある」というのはどうやら事実のようである。
今回の倉田てつを氏の炎上で露見したことは決して倉田氏の杜撰な立ち居振る舞いだけではなく、そんな彼の本質や目的を見抜けず盲信し役と混同していたファンの怠慢・蒙昧ぶりにも原因があるということだ。
SNSが発達して一億総芸能人時代になったことで近づきやすくはなったが、あくまでもファンは「お客様」であって「お友達」ではないことを改めて自覚した方がいいと思えた炎上案件だった。