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『機動新世紀ガンダムX』が「地味」「つまらない」と言われる理由を考察してみた!「ガンダムX」はガンダムシリーズよりも勇者シリーズの系譜か?

本当なら今日は『新テニスの王子様』最新号の感想を早速載せたかったところだが、情報量がこれまた多すぎてまだ未消化なので明日辺りにアップします!
んで、最近『新機動戦記ガンダムW』を見た後ということで、勢いそのままに『機動新世紀ガンダムX』を見直しているのだが、あまりにも退屈すぎて1話でドロップアウトした。
ダメだ、「Gガンダム」「ガンダムW」の後にこんなかったるいの見せられると思うと、そりゃあ「地味」「ショボい」「つまらない」と酷評されても仕方ない。
まあ数年前まで私がホームページやってた時にはもうそりゃ黒羽翔さんと一緒に散々ボロカスに酷評したものだった。

今思うと酷いことをしたとは思うが、あの時書いたこと自体は今でもそう思ってるので間違いじゃない。
なので今回はなぜ「ガンダムX」が「地味」「つまらない」と言われるのかを個人的主観丸出しで、当時の感覚や業界の事情も多少は踏まえつつ述べてみようかと思う。

一言で言えば「ガンダムX」は「いちごのないショートケーキ」

いちごのないショートケーキ

結論から言ってしまえば、私にとっての『機動新世紀ガンダムX』とは「いちごのないショートケーキ」であり、一言で言えば「華=売りになるもの」が何もない
それこそ国民的スターの木村拓哉が同じ国民的スターの二宮和也と映画『検察側の罪人』で共演した時期に「ぴったんこカンカン」で全くスター性の欠片もない二宮和也の私服を指してこう言っていた。

華・旨味がない

正にこれこそ私は「ガンダムX」を評するに相応しい言葉だと私は思っており、前2作(『機動武闘伝Gガンダム』『新機動戦記ガンダムW』」との比較の有無を別としてもこの言葉が適切ではなかろうか。
主人公ガロード・ランとヒロインのティファ・アディールのキャラデザインに人物描写もそうだし、また彼らが乗っているガンダムXも主人公メカとして見た目もギミックもパンチが弱すぎる

やはりここが本作のまず持ってダメな部分であり、作品の形式にしろ意味内容にしろ、まず絶対的に守って欲しいのは「主人公と主役ガンダムが圧倒的な強さとかっこよさがあること」だろう。
1stのアムロ・レイとガンダムはもちろんのこと、ドモン・カッシュとシャイニングガンダム、ヒイロ・ユイとウイングガンダムもそこはしっかり守っていて、1話の見せ方がとにかく最高だった。
慣れないど素人ながら類稀なる操縦技術とセンスでザク2機をやっつけるガンダム、銃弾を生身で防ぎシャイニングフィンガーで頭を取ったシャイニングガンダム、OZの敵メカをあっさりバスターライフルで撃墜するウイングガンダム。
やはり主役メカをどれだけかっこよく描けるかは大事なのだが、ガンダムエックスはその辺りの見せ方も微妙で、ただ雑魚兵のしょっぱいやつをビームサーベル使って適当に薙ぎ払っただけで、魅力的な見せ方とは言い難い

しかも挙げ句の果てにのちに味方となるサブガンダムにまで助けられてる始末だから、主人公のメカデビューとしての印象があまりにも薄く、ガロードとティファのキャラ付けもこれといって特筆すべきものもなし
こんなのではメカが売れるわけもなければキャラに人気が出るわけでもなく、そりゃあコアなファン以外のにわかにまではリーチしない、内輪ノリで盛り上がっているだけの作品になってしまう。
この点においては私は認めたくはないが「ガンダムSEED」の方が優れているとは思ったところであり、「SEED」は決して褒められた出来栄えではないが新規層獲得をはじめ売り上げも視聴率も好記録をマークした。
いくら商業作品だからとは言っても、やはり全国の公共電波を借りて映像作品として提供している以上、まずは「売れるもの」をきちんと作るのがクリエイターとしての第一条件である。

「ボーイミーツガール」と「ニュータイプ否定」だけではあまりにも仕掛けとして弱すぎた

ボーイミーツガール

そして今度は意味内容の方に入っていが、本作はその意味内容の方もイマイチ弱くて、本作で描かれていたのがまさかの「ボーイミーツガール」と「ニュータイプ否定」だったのである。

宮崎駿アニメかよ!

まず「ボーイミーツガール」と聞いて誰しもが思い浮かべるのが『天空の城ラピュタ』だろうし、「ニュータイプ否定」、すなわち「幻想・理想郷の否定」とはすなわち『風の谷のナウシカ』がテーマとしたことだった。
なるほど、テーマとして言いたいことは宮崎駿が映画を通して描いてきた反戦思想の現れであり、それを高松監督と川崎ヒロユキが得意とするメタフィクションによって再構成しようと思えたのだろう。
しかし、その2つだけではあまりにも作品を構成する仕掛けとして弱すぎるのである、ガンダムシリーズが持っている「人類同士がMSに乗って命の奪い合いを行う」という世界観はそんなもので太刀打ちできる甘いものではない

少年が綺麗な少女と出会って恋に落ちてなんてパターンは確かに『未来少年コナン』から宮崎駿が得意としていたパターンだが、ガンダムにおける「戦争」とはその「ボーイミーツガール」すら残酷に引き裂くものである。
1stからしてアムロと幼馴染のフラウは決して恋仲になれなかったわけだし、Gのドモンとレインにしたって最終的に結ばれはしたものの最初からそういう関係だったわけじゃないし、ヒイロとリリーナなんて「お前を殺す」から始まった。
決して一筋縄では行かない屈折した人間模様を1つの売りとしてきたガンダムシリーズにおいて、ド直球の恋愛描写なんかされても、そりゃあ「二次創作」「パロディ」としてであれば認められたかもしれない。
しかし、これを一次創作として、立派なガンダム列伝に並ぶ人間模様と同等に評価しろというのは厳しいし、そもそも私も含めてガンダムシリーズの視聴者は織り目正しい児童文学の作風なんか求めてないのである。

そもそも1stからして、昨日の「ガンダムW」のレビューでも書いたように「形式的王道×意味的邪道」で成り立っているものだと書いた、それは即ち70年代ロボアニメ・SF映画のエッセンスを借りつつも、意味内容はタブーと呼ばれるものということである。
70年代ロボアニメに対する徹底的なアンチテーゼ・カウンターとして描かれ、それが一定以上に成功したからこそ富野監督の1stはアニメ界におけるヌーヴェルヴァーグとでもいうべき革新をもたらすことに成功したのだ。
そのタイトなロック魂を「Gガンダム」「ガンダムW」もきっちり継承して、少年漫画的王道を形式と意味の両方に持ち込むことでガンダムの「枠」を破壊し1stの呪縛から解放することに成功したのがGである。
そしてWでは歴代ガンダムを徹底的に圧縮と引き算をしつつ、更に主人公をクールな天才タイプにすることで徹底した「覇道」として描き、旧体制が滅び完全平和に至るまでの道筋を鮮やかに描き出した。

そのロック魂のようなものがXにおいてはどうやら正しく継承されなかったようであり、まずその仕掛けからしてパンチが弱すぎると言わざるをえまい

高松監督の仮想敵は富野ガンダムというよりもむしろ『伝説の勇者ダ・ガーン』だったのではないか?

伝説の勇者

そして3つ目、これは今改めて見直して思うことなのだが、高松監督と川崎ヒロユキら当時の作り手が仮想敵として置いたのは本当に富野ガンダムだったのだろうか?
私はどうもそれは違うような気がしていて、それこそ「X」繋がりで私は『伝説の勇者ダ・ガーン』こそ高松監督が実は仮想敵としていたのではという仮説を挙げたい。
これに関してはそれなりに根拠があって、というのも元々高松監督は『勇者特急マイトガイン』『勇者警察ジェイデッカー』『黄金勇者ゴルドラン』を手がけていた。
その高松三部作は『勇者エクスカイザー』『太陽の勇者ファイバード』『伝説の勇者ダ・ガーン』ら谷田部勇者三部作を土台としたカウンターとして作られている。

例えば最初の「マイトガイン」はそれまで「知る人ぞ知る」という知名度だった勇者シリーズの知名度と人気を一気に拡大し、新規層を取り込むことに成功した。
実際「アニメージュ」をはじめとする当時のアニメ雑誌にひっきりなしになっていたし、作風としても超AIの地域密着型という世界規模を守れるご当地ヒーローとして作られている。
それによってまず勇者シリーズに息吹を吹き込んだ後、今度は『勇者警察ジェイデッカー』で改めて真正面から『勇者エクスカイザー』を解体・再構築してみた。
そこまで成功した上で、今度は『太陽の勇者ファイバード』を不思議コメディテイストのようなシュールギャグによって茶化す構造とし、最終的には敵組織と和解・共闘する展開まで見せている。

そう考えるとガンダムシリーズの文脈で見ると謎だらけだった「ガンダムX」で高松監督がやろうとした真意も見えてきて、おそらくだが高松監督は『伝説の勇者ダ・ガーン』の解体・再構築をガンダムで行おうとしたのではないか?
主人公メカが同じ「エックス」という名前がついて主力武器が波動砲レベルというのも似ているし、明朗快活なガロードに静謐なティファの組み合わせは高杉星史と桜小路螢の組み合わせを彷彿させる。
また、終盤で出てきたパーラ・シスの明朗快活な男勝りなキャラも香坂ひかるを想起させ、しかもテーマが「ニュータイプ=奇跡の力の否定」となると、おそらく「ダ・ガーン」を裏返しにしたかったのではと思う。
それこそ『勇者王ガオガイガー』の裏返しが『ベターマン』であるように、高松監督と川崎ヒロユキにとってこの「ガンダムX」は富野ガンダムというより谷田部勇者との戦いの続きであったのかもしれない。

いずれにせよ、色々な不運・不幸が重なった作品がこの「ガンダムX」であることには違いないだろう、勇者シリーズで展開していたらまた評価も違ったものと思われる


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