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OVA『デジモンアドベンチャー20th メモリアルストーリー』簡易感想〜「宿命」と「運命」というものをどう捉えるか?〜

OVA『デジモンアドベンチャー20th メモリアルストーリー』を見たので簡易ながら感想をば。
全体的には「ラスエボ」の前日譚となっており、映画では語られていない選ばれし子供たちのサイドストーリーが掘り下げられているという形になっている。
全体通して1〜3話がわりかしシリアスというか、子供達の「その後」が語られていたのに対して、4話のジョグレス回と5話の渋谷系デジモンは完全なギャグ回。
驚きみたいなものはあまりなかったけど、5話の組み合わせがまさかのブイモン&ガブモンであることと、まさかの無印で数少ない好きだった点の1つであるパンプモンとゴツモンのネタを拾ってくるとはw

あれは反則だろう、まさかの「渋谷系」ではなく「銀座系」で銀座のお姉さんと夜のクラブに飲みに行くとかこれ絶対関弘美の趣味だったとしか思えないw
あと、太一が外交官を目指すために早稲田大学に行っているというのも恐らくは関弘美自身が早稲田卒だからというのを太一に反映させていたものと考えられる。
まあ確かに早稲田出身の外交官が多いというのはあるけども、あの勉強苦手だった太一が行けそうな高学歴大学つったら確かに早稲田くらいしかないよなあ。
慶應義塾大学はスマートで上品な学生が多いから太一のキャラに合っていないし、かと行って学歴最高峰の東大や変人の多い京大に行くとも思えない。

正直な話「ラスエボ」本編よりもこっちの方が面白かったし、「tri.」と違って1つのエピソードにつき4〜5分と短めなので、箸休めにはちょうどいい。
ただし、ピヨモンとパルモンがジョグレス進化に憧れてブイモンに聞きたがるネタは正直今更というか、そのネタは「02」本編のギャグ回でやっておくべきだったとは思うが。
個人的に一番考えさせられたのが実は1話の空とミミの会話におけるミミの一言。

「ねえ空さん。私ね、私たちが選ばれし子供になったのは「運命」だと思うの。でも、「宿命」じゃないと思うんだ。私は私らしく自由にやるよ」

面白かったのは空が「選ばれし子供」であることと「家元の跡継ぎ」である自分に苦悩した挙句に「選ばれし子供でも家元の後継でもない「武之内空」という普通の女の子としていきたい」という本音を漏らしたことである。
この悩み自体は無印でも「02」でも空の根底にあったものであり、ミミや光子郎みたいにまだ前向きになって自分のやりたいことを胸を張って出来ているとは言えないのではないだろうか。
そう考えると彼女が抱えていた悩みはあの冒険で解消されたわけではなく、むしろ年々彼女を苦しめ蝕む「毒」であったわけで、だから似たような悩みを抱えているヤマトと結婚したのだろうなと。
太一と空に関してはあくまでも「同郷の好」以上のものはないのではなかろうか、同じサッカーチームにいて苦楽を共にした仲間であり幼馴染、それ以外の何もなく男女の情はなかったといえる。

無印組の1つ特徴的な側面は「選ばれし子供」という言葉やデジタルワールド・デジモンへの関わり方が必ずしも全員で一致しているわけではないということだろう。
空みたいに「できれば関わりたくない」という人もいれば太一や光子郎みたいに「積極的に関わりたい」という人もいて、はたまたミミみたいに「選ばれし子供」の運命は受け入れてもそれに縛られず自分が好きなようにやっていきたい人。
様々なタイプに分かれていて、そりゃあ「ウォーゲーム」の時に光子郎が「まとまりがない」と言った理由も分かろうというものだ、無印組はたまたまサマーキャンプに参加していただけのバラバラな奴らだったんだから。
02組みたいに選ばれし子供になる前から既に幼馴染としての関係性があってデジタルワールドとの関わり方も前向きな協調性ある健全な精神の子達の集まりはそこが違っている、良くも悪くも。

「宿命」と「運命」、一見似ているようで全く違うこの2つの単語だが、「宿命」という単語は文字通り「命に宿しているもの」なので、生まれる前からの業などが深く関わっている。
それに対して「運命」は「命を運ぶ」と書くので、本人の意思とは無関係に降りかかってくるものだが、それをどうするかは本人の意思次第で決まるというものだ。
実は無印の最終回で別れた時のナレーションでこのように締めくくられている。

「8人の選ばれし子供たちの冒険は終わった。しかしデジタルゲートは閉じたままというわけではない。何故なら選ばれし子供たちの冒険はこれが最初でもなければ、終わりでもないからだ」

そう、「選ばれし子供」なんてご大層な単語をつけているが、別に太一たちのあの冒険が最初でもなければ最後でもない、ましてや「運命」ではあっても「宿命」ではないのだ。
で、その「一夏の冒険に選ばれた運命」だったデジタルワールドおよびデジモンの存在をある意味「宿命」にしてみせるという「奇跡」を起こしたのが本宮大輔&ブイモンを中心とした02組だったわけで。
以前の記事で「Vテイマーのタイチに紋章を与えるとしたら「宿命」」と書いたのだが、おそらく「Vテイマー01」の世界はアニメのアドベンチャーと違ってきっと「宿命」の戦いだったのだろう。
詳細は語られていないが、おそらく「Vテイマー」のタイチ・ネオ辺りはそれこそ一生デジモンとの縁を切ることなくプロゲーマーとしての生計を立てて戦うという宿命を持っていそうだ。

そのように考える時、02大輔の精神的・肉体的負担ってどれだけ凄まじいものだったのだろうか?と考えてしまう。

だってそうだろう、大輔とブイモンのラーメン屋というのだって02最終回で唐突に出てきたもので、魂の双子にしてジョグレスパートナーの賢ですら知らなかったのだから我々が知る由も無い。
しかし、意外に思われたこのラーメン屋も「ラスエボ」「THE BEGINNING」で本気で取り組んでいたのを見るに、きっといろんなものを見てきた大輔が自分なりに出した「デジタルワールドとの関わり方」だったんだろう。
初代選ばれし子供達やウォレスが「運命」としてデジモンに関わり、Vテイマーのタイチたちが「宿命」としてデジモンと関わるのならば、大輔とブイモンにとっては「運命」であると同時に「宿命」でもあったのではないか?
これがおそらく現代種デジモンに選ばれた無印組と古代種デジモンに選ばれた02組との最大の違いでもあるのだけど、「beat hit!」はいうまでもなく本宮大輔とブイモンの苛烈な運命と宿命を歌い上げた最高の挿入歌である。

以前も「02」の批評で書いたが、「1000年前も僕たちは戦っていた」というのは恐らく「Vテイマー」の過酷な世界で古代種デジモンがまだ栄えていた頃を知っている大輔だからこそのもの。
そして「1000年後も僕たちが笑い合える未来のために」というのはそんな大輔が賢という最高のパートナーを手に入れて「運命」も「宿命」も全てを抱えて生きて行くことを決意した曲なのである。
「もう、とまどうヒマは残されてないんだぜ」がそんな大輔とブイモンの男前な覚悟を表していて、そして「さあ、君は逃げるかそれとも立ち向かうか」は大輔から賢に諭すように語りかけているだろう。
ネットでよく言われる大輔の鋼メンタル・神メンタルは吉村元希氏は意識して描いたということだが、単純に「強い使命感がある」とか「仲間のため」とかそんなのでは片付けられない強さと深さがある。

「THE BEGINNING」でのあの覚悟の決め方を見るに、タイチと出会って並行世界を知り自分の本質に近づいた大輔は「賢を救う」と決めた時からそういう覚悟ができていたはずだ。
02組の方が個人的に無印組よりも好きなのは彼らには「絆」もあれば「友情」もあって、勝利のためにそれを切り捨てるとかいう葛藤はもう乗り越えてしまっているからだろう。
その境地に到達していたのが「02」の原作後半だと大輔とブイモンだけだったのが「ラスエボ」「THE BEGINNING」辺りになると京も伊織も賢もそういうメンタルになっている。
そう考えると、何だか「普通の女の子でいたい」とか「私は私のやりたいようにやる」といった空やミミの考え方や悩みって大輔たちには縁遠いというか理解できないのではなかろうか

大輔にとっては「本宮大輔」であることも「選ばれし子供」であることも、そして「ラーメン屋」を目指すことも全てが同一直線上に存在していて、全てを手にしたままデジタルワールドを世界中の子供達に渡せるように奔走しているのだろう。
彼の理念は恐らく「ラーメンを通じて人間世界とデジタルワールドを繋げる」ことであり、だから「運命」でもあり「宿命」でもある壮大な戦いを難なくやってのける稀有な存在だったのではないだろうか。
なればこそ彼は「奇跡」に選ばれたわけだし、暗黒の力側からすればそういう奴が一番恐ろしいのだろうが、それもこれも全ては「Vテイマー」のあのコラボ回が発端だと思うと仕方ないね
あの勝率100%テイマーに最初に出会った並行世界のテイマーとデジモンとして、彼は生きている間もずっとデジタルワールドの為に、そして人間界の為に戦い続けているのだ。

あれ?なんだか無印組のことを述べるつもりが結局また大輔とブイモンの話になってしまったが、まあ仕方ない。
今や無印組の株がどんどん下がる一方で02組の株が上がって行く一方だからね、やはり私の目は狂っていなかった。

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