氷帝の2年生エース・日吉若にとっての関東大会と全国大会
最近、原作の氷帝戦を読み直してみると関東大会・全国大会共に青学に対しては接戦のように描写されていますが、はっきり言って純粋な実力でいえば青学が氷帝より断然上です。
関東大会では3勝2敗1ノーゲーム、全国大会でも3勝2敗というスコアですが、メタ的に見れば許斐先生のマンネリ防止とファンサービスなのですが、決してフェアな条件の戦いではありません。
例えば関東初戦では樺地とタカさんのノーゲームは別としても、例えば最初のダブルスは桃城・菊丸ではなく黄金ペアだったら大して苦戦せずに余裕の完封勝ちだったでしょう。
また、S1の手塚VS跡部様にしたって手塚が左肘をかばっていたため百錬自得を使えず終盤は左肩の故障という思わぬアクシデントによって試合が長引いたに過ぎません。
全国大会にしたって同じことが言え、全国の場合はもしS3に桃城ではなく不二を当てていたとしたら余裕の3タテで終わっていたはずですし、D1も同じです。
最後は大石がまだ左手首完治ではなかったから最後に菊丸が止めて試合は宍戸・鳳の勝ちとなっただけで、もし黄金ペアが完璧だったら宍戸・鳳は負けていました。
跡部様にしたって全国大会で進化したのは大きいですが、それでも越前相手に前半は接待プレイをかました挙句接戦で負けていますから、この時点で氷帝は格下なわけです。
まあそもそも氷帝は「スラダン」でいう翔陽みたいなもので、都大会で不動峰に負けてるところからあまり強い印象はないのですがね。
氷帝の問題点に関してはまた別の機会に書くとして、今回は赤也と同じ2年生エースで次期部長の日吉にとってこの夏はどんなものだったのでしょうか?
関東も全国も敗北で終わってしまった悲しき日吉若にとっての戦いを彼の心情面から迫ってみます。
余りにも背負うものが大き過ぎた関東大会
まず関東大会の越前リョーマ戦ですが、この戦いは正直言って最初から日吉が負けることは確定の演出と構成になっていました、何せ試合前の独白が狡い考えしてるんですから。
座右の銘「下剋上」は別に構わないのですが、まず日吉が倒すべき相手は目の前にいる超1年生(スーパールーキー)越前リョーマなのに跡部様からS1の座を奪うことを考えています。
氷帝は敗者切り捨ての完全実力主義の学校ですからそういう考えの持ち主がいても構いませんが、いまいち説得力に欠けるのは日吉が他のレギュラーを実力で倒してのし上がったわけじゃないからです。
ここが越前と違うところであり、越前は少なくとも桃城・海堂・乾には勝ってレギュラーの座を勝ち取っていますし、2度目のランキング戦でも大石に勝っていました。
おそらく手塚と不二以外には残りの菊丸・タカさんでもSで越前に勝てる実力はないでしょうし、日吉戦までに十分な実績も積み上げて相当に強くなっています。
これに対して日吉がレギュラー入りしたきっかけは正レギュラーの滝が宍戸に負けたからその穴を埋める形で入ったわけであり、要するに補欠繰り上がりです。
むしろ氷帝で下剋上を起こしたのは日吉ではなく宍戸の方であり、敗北という挫折を味わったことでもう一度自分のテニスを見直して根性を叩き直しました。
その経験がない日吉が補欠繰り上がりで入れたことをラッキーだと思っていてもおかしくありませんし、むしろそれがあの雑念に繋がっているのだと思います。
そうしてやっと巡ってきた公式戦デビューが関東大会初戦という重要な試合ですからまず落とすことは許されませんし、相当な意気込みで臨んだことでしょう。
しかし相手は伝説のテニスプレイヤー・越前南次郎の息子にしてアメリカのJr.トーナメント4連続優勝の天才少年・越前リョーマという、手塚から「青学の柱」を託された男です。
どれだけ体が小さくとも内に秘めている思いと一戦一戦を勝ち抜くことで得た自信と土壇場での胆力、もう十分過ぎるほど越前のテニススタイルは完成していました。
それにもかかわらずまだまだ上を目指そうとする飽くなき向上心とテニスを楽しむ子供のような心を持ち合わせた彼の中には一切の邪念がありません。
はっきり言って日吉ごときが相手になるわけがなく、それこそ氷帝でもまともに越前に勝てそうなのはこの段階でも跡部くらいしかいないのではないでしょうか。
跡部様は「何としても勝て日吉」と言っていますが、この段階の日吉が越前を相手にして勝ちを収めるなんてはっきり言って無理ゲーです。
「スラダン」に例えるなら翔陽の補欠繰り上がりのそこそこプレイできる無名選手がいきなり湘北のスーパールーキー・流川楓をマークしろと言われるようなものでしょう。
いくら古武術を用いた独自のスタイルがあったとしてもそれだけ勝てるわけがなく、むしろ4ゲームも越前から奪えただけでも僥倖です。
試合後にメンバーに囲まれながら泣きついていましたが、まあここで負けてしまうのは仕方ないでしょう、いきなり最悪に遭遇しましたから。
しかし、日吉はまだこの時なぜ自分が負けたのかに加えてどうすれば次に勝てるようになるのかといった自己分析・反省がきちんとできていなかったようです。
それがリベンジのチャンスであるはずの全国大会で言い訳しようのない形で露呈することになります。
相手の執念深さを舐めきって負けた全国大会
青学への雪辱戦として挑んだ全国大会準々決勝のD2で日吉は向日とダブルスを組んで乾・海堂ペアと戦いましたが、彼らの執念深さを甘く見て短期決戦で決められると思い込んだためにまたも破れました。
単純な実力で負けているかといえばそうではないでしょう、少なくともあれだけの修羅場を潜り抜けてきた海堂と乾を相手にあれだけのプレイを見せて翻弄したのですから凄い伸び率です。
打倒青学に賭ける思いは本物だったのですがまず1つは海堂の執念深さを甘く見ていたことが直接の敗因ですが、それ以外にも日吉に目を向けてみると負けフラグは立っています。
この画像をご覧いただければわかるように、桃城相手に善戦して勝利を収めた忍足に対して「意外と甘いっすね」なんて悪口を叩いており、向日から「こいつとは組みたくない」と言われているのです。
越前に辛酸を嘗めさせられたにも関わらずその甘ったれた根性は直りきっておらず、粘って勝ちを収めたチームメイトの批判を偉そうにしており、典型的な雑魚キャラムーブをかましています。
ここでの正しいリアクションは勝ちをしっかり収めたチームメイトの勝利を評価するべきなのですが、実力でレギュラーを勝ち取ったわけじゃない日吉はまだその生意気さが悪い形で残っているのです。
同じ生意気な性格でも越前との違いはここにも現れており、越前も先輩や同期相手にケチをつけることはあったとしても、それはあくまで相手に完全に非がある時か発破をかける時だけでした。
彼は一度としてチームメイトの悪口なんて言ったことはなく、尊敬できるところは「凄い」と褒める素直さや可愛げはありますから、生意気そうでもきちんと筋は通っているのです。
しかし日吉はまだ忍足と桃城がやっているゲームのレベルの高さが見えていないのか、外野の言葉レベルのことしか言えないし、強くなったのだから勝てると思い込んでいました。
要するに今ネットで流行りの「俺は完全に理解した!」とでもいうべきダニング・クルーガー効果というものに陥ってしまっており、自分に対しても相手に対しても謙虚になりきれていません。
確かに日吉も関東大会の時よりは反省してレベルアップは果たしているようですが、それと同じくらい青学もまた様々な修羅場を潜ってきて関東大会初戦とは比較にならないほどレベルアップしています。
一戦一戦を全力で驕ることなく勝ち抜いてきた青学の、その中でも正念場での執念深い粘りと正確なデータを持ち合わせた影の実力者である乾と海堂だって立派なレギュラーなのです。
決して手塚のワンマンチームではない青学をそんな風に甘く見て、しかも関東大会では宍戸・鳳を相手に負けているからと舐め腐った結果がこの無様な醜態となって現れました。
各々が関東大会での屈辱をしっかり反省し、弱点を克服して挑んでいる中で日吉と向日は自分の弱点をきちんと克服し切れないまま関東大会の時とさほど変わらないメンタリティで挑んだわけです。
これに関してはもう流石に言い訳も用語も不可能なレベルでボロクソに叩きのめされたわけであり、思えばこの時点で既に氷帝が再度青学に負けるのは目に見えていたといえます。
日吉若(と向日岳斗)にとっての夏はどちらも負けっぱなしで終わるという苦い思い出で終わってしまいました。
日吉に足りないのは経験値と土壇場の胆力
このように見ていくと、日吉若の夏の大会は決して芳しい結果だとは言えなかったのですが、だからこそ新テニで彼がきちんと這い上がってきたのは大きな成長の証でしょう。
新テニではまず跡部と一対一でタイブレーク気味の持久戦をしながら跡部様に一対一で鍛えてもらい「お前だけの氷帝コールを見つけてみろ」との言葉をいただきました。
この時日吉は笑顔で「はい」と答えているのですが、この受け答えに人間的な成長が見られ、レイヤーが上がったことで自分に対して、何よりテニスに対して謙虚で真摯になれたと言えます。
全国で負けた後日吉は跡部様につきっきりで鍛えてもらっていたことが判明しますが、流石に跡部様もこれから氷帝を継ぐ若きエースのメンタリティがあのままでは困ると踏んだのでしょう。
関東大会と全国大会の敗戦を分析してみると、日吉に足りないのは人間性もそうですが、何よりも経験値と土壇場で諦めずに粘り強く戦う胆力であったといえます。
古武術であそこまで頭角を現したのですから元々才能やセンスは十分にありましたが、一方でやはり経験値不足から来る自信のなさや想定外の手で来られても心折れない精神力は必須でした。
それを跡部様から全身全霊をかけて教えてもらい、その中で日吉も2度負けたことに対する自信回復と共に技術面やゲームメイクも関東大会初戦に比べて相当伸びています。
そして向日と共に負け組で一緒に頑張り抜いて戻ってきたことによって更なる自信をつけたことですし、次期部長番外編では不完全ながら日吉王国まで建国していました。
まあ流石に跡部様ほどの洞察力はないのでギャグで終わってしまいましたが、最初は単なる越前のかませ犬だった奴がここまで這い上がってきたのは興味深いところです。
思うのですが氷帝は勝っている時よりもむしろ負けてからの方が成長するのではないでしょうか、現に部長の跡部様からして負けた痛みで成長してきましたし。
今の所は話の都合上目立った活躍を見せていない日吉ですが、財前・海堂と並んで次期部長になる男なのですからもっと伸びて追い上げて欲しいです。
そうすればきっと立海の赤也と良いライバル関係になれると思いますしね、赤也といい勝負をした男は伊達じゃないというのを証明してもらえればと期待しています。
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