『新テニスの王子様 氷帝vs立海 Game of Future』感想
とりあえず「新テニ」がいよいよ大詰めの決勝戦(スペイン)を間近に控えているため、先行投資という意味も含めてアニメオリジナルで先にこちらを見ておきました。
まあ正直ツッコミどころはとても多いものの、「新テニ」の後日談の派生作品ということで、原作に直接影響を与えない「IFもの」としてのお楽しみなのでしょう。
いうなれば旧作の「過去と未来からのメッセージ」の青学と四天宝寺の合同合宿エピソードのようなものと捉えています、私はあくまでも原作至上主義なので。
色々突っ込みたいところはありましたが、とりあえずD2・S2・S1はとてもカロリーと満足度の高い仕上がりになっていました。
特に先生が「次期部長編」としてちょろっと出しただけの玉川次期部長のプレイスタイルを丸井とのダブルスの中で見せてくれた流れはよくできています。
「ロブに定評がある」ことや人望があって穏やかな性格ということから気弱な大石副部長タイプだと想像しており、ほぼその通りのキャラクターとして描かれていました。
初の練習試合で慣れていない未熟な玉川を丸井先輩がグイグイリードして勝利へと繋げていくところは凄く良かったですし、玉川のロブも多種多様です。
こういう「普通のテニス」であり得そうな範囲からきちんと展開していくのは大変好感が持てますし、こういう形ならまあ上手い補完になっているかと思います。
また、「跡部王国」が「跡部次元」という進化を見せていたことや日吉が新たな『四神演舞・朱雀』『四神演舞・白虎』というパワーアップを出していたのは良かったです。
次期部長なのに原作では最初に試合してからは全く見せ場がなかったので、彼は彼で新たな強さの境地を切り開いて赤也に肉迫しているのは日吉ファンの方々は嬉しいんじゃないでしょうか。
惜しくも敗れましたが、あの青目モードの赤也を相手にこれだけ善戦すればいい方で、まだ残りの二つ『青龍』『玄武』もこれから見せてくれることと思います。
元々古武術をやっていたのが日吉の設定なので、下手に無我の境地や阿修羅の神道へ行かずに日吉オリジナルのテニスを大事にしてくれて好感が持てました。
ただし、良かった点はそこまでであり、後は突っ込みどころというか問題点があって、一番の問題は「演出の都合でキャラの格や強さが変わってしまうこと」にあります。
私がアニオリを信用しきれないのはまさにここで、許斐剛先生が描かれる原作とそれをベースにしたアニメで大きく違ったのはここなんですよね。
これは今に始まったことではなく、トランスアーツが作っていたテレビシリーズからしてそうで、結構原作の意図を捻じ曲げた演出や話が目立つことがあります。
たとえば関東氷帝の越前VS日吉なんて原作では6-4のスコアなのにアニメだと6-2で日吉がなぜか雑魚扱いですし、六角戦からはもう完全に黒歴史ですね。
関東大会といえばアニメの立海戦もそれで、大まかな流れや試合のオーダーは原作と似ているのですが、アニメ版の関東立海戦は私大嫌いなんですよね。
たとえば原作のD2が1-6で負けたのをアニメでは4-6で桃城・海堂の強さを盛ったり、越前の無我の境地にしても何の説明もなく真田がマッチポイントになったから発動するといういい加減なものでした。
あと真田が使っていた凄まじい威力のスマッシュや目を瞑ってのプレイも原作だと分散していたのに対して、アニメだと全部越前に持ってきたためにしわ寄せが目立っています。
そんなめちゃくちゃなことをしたせいでアニメで青学が立海に勝つ流れが納得いかないものになってしまい、原作はその辺り許斐先生がきちんと納得行く流れにしているため違和感がありません。
なぜこんなことが起こるのかというと、これは「ドラゴンボール」などもそうですが、バトル漫画やスポーツ漫画では大事な場面以外は読者を飽きさせないように戦闘や試合をカットする場合があります。
特に「それまで苦戦していたはずのキャラを後から登場したキャラが噛ませ扱いする」はよくあるもので、旧作だと大体このかませ犬ポジションが不動峰中学でした。
新テニだと大体このかませに使われているのが跡部様で、プレW杯ではパワーアップした手塚に瞬殺されていますし、赤也もドイツ戦であれだけの活躍を見せたと思えば不二に瞬殺されています。
この辺り原作だと許斐先生の中できちんとキャラの強さや格が安定しているため、基礎の実力が高いキャラは低いキャラを食い物にすることができるという弱肉強食の構図があるのです。
また、許斐先生が相手が仕掛けてきた特殊攻撃をどうやって攻略するかというのをロジカルに描くため、どんな特殊能力や技にもハンデやリスクを持たせてチートにしない工夫が凝らされています。
しかしアニメオリジナルだとその辺りの説明・描写を省いていつの間にか攻略していたことが多く、しかもそれでいつの間にか逆転してしまうというわけのわからない展開が目立つのです。
今回でいえば最初に跡部様がイップスを気合いで打破して突破するという展開はその典型で、気合で突破できてしまうようだったら原作やアニメで散々厄介な技として描かれたのは何だったのか?となりかねません。
幸村の五感剥奪はそう簡単にクリアできるものじゃなく、天衣無縫の極みといった圧倒的な概念を使わなければ打破できないレベルのものであり、幸村が自力で立ち直ったのは例外です。
また、一番突っ込みどころが多かったのは宍戸と柳生のシングルスであり、仁王が旅に出ていて不参加だったのは仕方ないとはいえ、これは対戦カードとしても試合内容としても納得できませんでした。
宍戸が鳳のアドバイス1つでレーザービームをあっさり攻略してそのまま勝ってしまうのは何だかなあと思ってしまいますし、まるで氷帝と立海が対等であるかのように演出されているのが気になります。
許斐先生が手がけている原作漫画では、氷帝は強豪ではあるものの立海と比べてだいぶ大きな力の差があり、跡部以外はあまりパッとしないワンマンチームというのが一貫しているのです。
実際世界大会の中学生代表に跡部しか選ばれていないところを見ると、やはり立海に比べて氷帝はメンバー層が薄いと言っても過言ではありません。
原作だと明確に立海≧青学>>四天宝寺>>>氷帝>(超えられない壁)>その他(不動峰・ルフドルフ・山吹・六角・比嘉)というヒエラルキーがありますが、アニメだとこのパワーバランスを必ずしも守っていません。
なぜこんなことになるかというと、アニメで漫画と同じ方式のキャラ立てをしてしまうと映像の流れとしてのリズムに合わなくなってしまいかねないからです。
漫画とアニメは似て非なる媒体であり、アニメはあくまで「映画」の1ジャンルですから、アニメオリジナルだとどうしてもこうならざるを得ません。
後日吉が体力切れを起こすという設定ですが、これも新テニ序盤で日吉は持久力という欠点を克服したはずであり、いくら新技を乱発してもそこまで体力を消耗するでしょうか?
それならば赤也の方こそ青目モードのリスクを描いて欲しくて、赤也の方が日吉よりスタミナがないというのが10.5のパラメータの設定なので、ここを崩したのは明らかな設定破綻です。
このように、話の都合で本来あるべき設定がコロコロ変わってしまうのがアニオリの難点であり、総合すると原作至上主義の私からすると面白い反面納得いかない部分もありました。
特に見せ場であるはずのS2とS1にまでそういう原作との設定の乖離・齟齬が発生してしまっているのは如何ともしがたい部分であり、許斐先生にきちんと確認をして修正すべきだったと思います。
まあ許斐先生は面白いと思ったものはアニメでもミュージカルでも逆輸入する人ですが、強さの格やゲームメイクはとてもロジカルに描く人なので、あくまで原作を楽しみにしましょうか。
ラストの温泉でゆったりするのは中学生らしくていいと思うので、もう少し強さの格や試合展開の表現に奥行きと論理性を据えて欲しかった、という何とも不満の残る出来でした。