心理学ガール #04

登場人物紹介
「僕」
  心理学部の大学四年生。語り手。
  社会心理学が好き。
ハルちゃん
  心理学部の大学二年生。好奇心旺盛。
  将来の夢は心理カウンセラー。
サキナさん
  心理学研究科の博士前期課程一年生。

アレはなんの味?

 僕は心理学部の大学4年生。図書館前でハルちゃんと遭遇したしたから、学生会館2階のいつもの場所に移動して話をしている。

僕「こんにちは。お久しぶりだね。元気でした?

ハル「はい! とっても元気です! この前から先輩と催眠の話をしていて、催眠への興味が増してきたので、催眠に興味のある人の集まりに参加して色々と情報収集をしてきました!」

僕「おお、テンション高めだね。その集まりがどんなだったか教えてよ。」

ハル「はい。SNSで募集をしているのを見て参加したんですけど、カラオケの大部屋に20人くらいが集まって、催眠について話をしたり、実際に催眠を掛け合ったりしました。中にはプロの催眠術師や催眠療法をやっている人もいました。目の前で催眠に掛かっている人を見て、やっぱり催眠ってすごいなって思いました」

僕「そんな集まりがあるんだね、びっくりだ。ハルちゃんは、催眠の何がすごいって思ったの?」

ハル「えっと、催眠術師の言われるがままに体が動かなくなったり味が変わったりするなんて、普通じゃ絶対に起こらない事じゃないですか。他にも、催眠療法をやってる人が『この世の中には気付かない催眠がたくさんあって、人は色んな暗示に掛かっていて、例えば常識ってのも催眠の一つで、催眠療法はその暗示や催眠を解くことだ』って話をしていて、なんだかとっても感銘を受けました」

僕「おもしろい経験をしてきてみたいだね。だけど、少し落ち着こう。僕らは心理学を学ぶ者だ。特に心理療法は人の健康に関わる分野だから、安易に手を出すのはやめておこう」

ハル「あっ、そうですね。臨床心理の講義でも教わりました」

僕「うん。そこを理解してくれるハルちゃんは素晴らしいよ。ところで、ハルちゃんは金縛りにあったことはない? あるいは友達に金縛りを経験した人とかを知らないかな」

ハル「わたし、一度だけ金縛りにあいました! 夜中に起きたと思ったら体が動かなかったんです! やっぱりあれって幽霊の仕業ですかね?」

僕「幽霊も無意識と一緒で反証不可能で、金縛りが幽霊の仕業かどうかはわからないけど、それって催眠で体が動かないのと似ていない?」

ハル「確かに、動こうとしても動かせないってのは同じですね。催眠を掛ける人はいませんけど」

僕「そうだね。違いもあるけど同じところもあるよね。次の質問だけど、ハルちゃんはかき氷のシロップは何味が好き?」

ハル「わたしは断然メロン派です! 先輩は?」

僕「僕はブルーハワイだけど、あれってイチゴとかメロンとか色々あるけど、基本的に成分は一緒で違うのは色と香料なんだって。知ってた?」

ハル「いえ、知りませんでした。だけど、ちゃんとメロンの味がしますよ」

僕「うん、確かにする。でも不思議じゃない? 味には香りも影響するとはいえ、純粋に味覚だけなら砂糖の味しかしないはずなのに、色と香料で果物の味だと感じている訳で。これって、催眠で味が変わってしまうのと似てない?」

ハル「言われれば似ているところもありますね」

僕「そう。ハルちゃんは、催眠で起きたことを、普通じゃ絶対に起きないと感じたみたいだけど、似たようなことは起きているんじゃないかな。そして、それは催眠とは言わないだろうし、言うべきでないと思うんだよね」

ハル「世の中に催眠がたくさんあるってのは、そういったことが催眠だってことなんじゃないですか?」

僕「そこはね、この前から話ているけど、”催眠”って言葉の使い方というか、定義と言い換えてもいいかもしれなけど、そこが曖昧なんじゃないかな」

ハル「催眠の定義ですか……」

僕「そう。催眠と催眠ではないものを分けられないと、催眠について学問的な対話はできない。もちろん、僕達は楽しむためにこの対話をしているんだから、研究者のような厳密さは必要ない。それでも、お互いが共通の認識を持たないとすれ違っちゃうんだよ」

ハル「もしかして、わたし達ずっとすれ違ってます?」

僕「大丈夫。ハルちゃんは、僕と向かい合ってくれているよ。だから楽しいし、この対話を続けてるんだ。」

ハル「えっ、なんかちょっと恥ずかしいです。あっ、ありがとうございます。わたし、そろそろ次の講義に行かなくちゃです」

僕「オッケー。やっぱり次は催眠の定義の話かな。わからないけど」

ハル「今日の話でわたし催眠に対して少し冷静になれました。また色々考えてみます。それでは!」

 ハルちゃんはにっこりと笑い、小走りで出口の向かっていった。