夏太郎

おそらく海の日生まれ。 日々のこと、考えていること、わたしの思考回路。

夏太郎

おそらく海の日生まれ。 日々のこと、考えていること、わたしの思考回路。

最近の記事

転寝

 十七歳の正月に父は逝った。私から見た父はとてもできた人だった。頭も良く、運動もできて、歌も上手い、話も面白い。怒るととても怖かったが、そんな父が大好きで「お父さんに似ているね。」と言われると嬉しかった。小学校教諭だった父は児童からも保護者からも、同僚の先生方からも慕われていた様子で、教え子や関係者がかわるがわる顔を見に来たし、葬儀ではお坊さんの足が痺れるほど焼香の列は続いた。葬儀の後、父の地域教育への貢献を称え、教育委員会から感謝状も届いた。正月に亡くなるなんて、最期まで完

    • 雨と休日

       休職開始からしばらく経って、少し元気になってきた頃、人事との定期面談で「規則正しい生活をしてくださいね」と言われ、加えて同時期に休職していた友人は会社の規則で毎日休職日誌なるものをつけなければならないと言っていた。確かに自分の性格上このままでは廃人になりかねないという危機感もあった。せっかく時間があるのだから有意義に過ごさなくてはと、できるかどうかはさておき、ToDoリストを作成し、月曜日の朝には1週間の予定を立てることにした。  月曜日は勉強の日、語学や色彩検定について、

      • 周回遅れの人生

         先日近所の本屋に立ち寄ったとき、飯村大樹さんの『サッド・バケーション』というエッセイ集が目に止まり、思わず手に取っていた。今年に入ってから会社を休職していた私は、まさしく悲しい休暇中であった。これは今読むべき本ではとすぐに購入した。  仕事から離れて、まずはひたすら休み、よく食べよく眠る。心身共に回復してくると、急に頭がクリアになったと感じた瞬間があった。読書家ではないが、急に本がサクサク読めるようになった。映画を1日に何本も観れるようになった。もともと脳みその容量が少な

        • 大きいものへの憧れ

           初めて飛行機に乗ったのは中学2年生、オーストラリアの田舎にある、母校が定提携している姉妹校へ交換留学に行ったときだったが、オーストラリアでの思い出が色濃く、空港や飛行機内のことはあまり覚えていない。2回目は高校の修学旅行で沖縄へ行ったとき。この時も那覇空港で中尾彬さんをお見かけしたこと以外あまり覚えていない。大学に入り、友人とタイへ旅行に行ったときは飛行機がとても揺れて怖かったな。それから3年のとき夏期休暇を利用してカナダ、モントリオールへ留学したときは、隣にとても大柄な男

          言葉にしなければいけない

           「言葉にできない」と歌うように、映像や音、ダンス、絵など、言語がされない表現が世の中にはたくさんあり、受ける自分は少しでも自分の感度を上げて、作者が言わんとすることをインプットしようと試みる。体感とはよくいったもので、頭だけではなく体の五感を全て使って楽しみ受け取ると、脳みそまで至らぬ刺激は「なんだか〇〇だった」という感覚で身体に止まってしまう。その、まだ咀嚼し自分の腑に落とせていない段階が実は一番熱量があり、これをわざわざ自分の拙いボキャブラリィから似ている言葉を引っ張り

          言葉にしなければいけない

          思い出が捨てられない

           数年前から「ミニマリスト」や「断捨離」という言葉をよく耳にするようになった。今や「お片づけ」のプロまで現れ、自身のていねいな暮らしぶりや住まいのこだわりをSNSで発信する人も多く見られるようになり、自分も彼らのフォロワーの1人である。が、自分自身はミニマリストとは程遠い人間である。  引越しというものは自分の所有物を全て把握するのに良い機会である。人生初の引越しは、高校卒業後、進学のための上京であった。叔父の運転するワゴン車に、必要最低限の家財道具(母の知人の息子が手放し

          思い出が捨てられない

          作品は助け舟

           友人に話したら「うちの会社もこんな人ばっかりだよ」と言われるような人が4月から上司になった。上司と部下という立場をはっきりさせ、お金と肩書きを大事に、自身の友人を紹介するプロフィールには漏れなく年収がついてくるほど露骨だった。業績も大事なのはよくわかるが、極端に中身のない業務に精神衛生は保たれず、汚染は身体も蝕んだ。  1時間弱の面談で、上司に言われた言葉は針の雨のように鋭く全身に突き刺さり、フルマラソンを走ったような、ノンストップで富士山に登頂したような壮絶な疲労感とと

          作品は助け舟

          骨と石を想う休日

           先日行った東京国立近代美術館の帰り道、大丸東京店でやっているバレンタインフェアでものぞいてみるかと東京駅へ行ったので、ついでに、KITTE 2Fにあるインターメディアテクへ立ち寄った。説明しておくと、こは東京大学の研究室の収蔵品の博物館で、動物、植物、昆虫、化石、鉱物など、あらゆる標本が展示されており、まるで図鑑が実体化したような空間である。8割がコレクションで、2割たまに企画展がやっていたりする。今回は仏像と蓄音機だった。そのためほとんど入れ替えはないが、何度でも行って眺

          骨と石を想う休日

          創作に伴う賛否について

           東京国立近代美術館(以下、近美)で開催している「民藝の100年展」へ。最終休日ということもあり、入場は時間予約制に。そうとは知らずのこのこ出向き、次の入場まで、1時間半待ちに一度は臆したものの、隣の受付から「入場時間までの間コレクション展をご覧になれますので〜」と聞こえてきたので、よし、と当日券を購入。  行ったことがある人はわかると思うが、竹橋の駅周辺は毎日新聞社ビルと当美術館があるのみ、しかも休日は社ビルも閉鎖しており、地下の飲食店街も入れない、加えて外は雨!ここで目

          創作に伴う賛否について

          スカートを穿くこと

           少し前にTwitterか何かで「ノンセクシュアルを公表」という記事を読んだ。今まで聞いたことがなかった言葉だったので、ググッてみると、  ノンセクシャルとは、恋愛感情はあるが他者に対して性的欲求を抱かないセクシャリティのことを指す。 恋愛感情がある場合のアセクシャルとして、ロマンティックアセクシャルとも呼ばれる。  ちょうどこのような類で悩んでいた時期で、それがふっと軽くなった。カテゴライズはあまり好きではないけれど、言葉で知るというのは大切だなと思った。  最近はL

          スカートを穿くこと

          眠れない夜には

           深夜、もうそろそろ寝ないと、という時間になってもなんだか眠くないという日がある。本を読んでみたり、映画を見てみたり、とりあえず布団に入って目を閉じてみたり、しかし、寝なければと思えば思うほど逆効果で目が冴えてきてしまう。 そんなときにわたしは、部屋を暗くして、録画してあるNHK日曜美術館「世界で一番美しい本 ベリー侯のいとも豪華なる時祷(とう)書」をつける。  時祷書とは、中世ヨーロッパの装飾写本のひとつで、ローマ・カトリック教会が修道院の暮らしを生活に組み込みたいと考え

          眠れない夜には

          おつかれ乾杯

           仕事が終わって、ふうっと一息ついたときに、そういえば、1月27日は父の誕生日じゃないか、ということを思い出した。わたしが17歳のときに、45歳で亡くなったから、そうかそうかーー。  17歳のわたしに「好きなことしたええ」と言った父の言葉は、それ以来わたしの真ん中で大事に大事に温め続けている。高校卒業後に上京した、関東には父の同級生たちが住んでいて、せっかくだからと「県人会」なるものを発足し、四半期に一度くらいのペースで集まっては美味しいご飯をご馳走になっていた。  父と

          おつかれ乾杯

          格好良い人

           2020年はこれまでガサツに生きてきた自分を見つめ直し、可愛らしい人になりたいなと思っていたけれど、2020年の終わりに、自分はめっちゃ格好悪い人間だったということに気づき、2021年はぜひとも「格好良い人になりたい」と思った。  いや、そもそも格好良いってなんだ?私の思っていた格好良いとは。 ① 幼なじみのK君  実家の二軒隣に住む同級生で、背は一番低かったけど、誰よりも運動神経が良く、きっと顔もイケメンだった。何より、小学校の卒業式が終わった教室で、担任の先生から、

          格好良い人

          タイトルと次回予告

           幼い頃からテレビアニメやマンガが大好きで、小学校からの帰り道は16時15分から始まるアニメの再放送に目掛けてダッシュで帰宅したり、土日は早朝にやっているアニメのために学校へ行く日よりも早起きをするし、18時からのアニメのために自分だけ夕飯の時間をずらしたり、アニメ中心の生活を送っていた。我ながら凄まじい執着だったなと思う。(田舎だったので娯楽が少なかったのは事実)  アニメの主題歌をリアルタイムで流れる歌詞のテロップを見ながら、テレビの前で歌って覚えた。次回予告までしっか

          タイトルと次回予告

          繊細なひと

           最近話題になっている「HSP(Highly Sensitive Person)=ハイリー・センシティブ・パーソン」という言葉。生まれつき「非常に感受性が強く敏感な気質もった人」という意味で、統計的には人口の15%~20%。5人に1人があてはまるそう。(わりといるんだね。)病気ではなく、あくまで「気質」「性質」とのこと。  最初に耳にしたときは特に気にしていなかったが、たまたま見た朝のワイドショーで10項目くらいのセルフチェックをやっていて、へえ、と思って見ていたら、あれよ

          繊細なひと

          好きなものに蓋

           先日、絵を描いている友人とお茶をしたときのこと。 今年は家に籠る時間が長かったせいか、外の時間はあっという間に流れていて、気づかぬうちに季節が変わって、扉を開けてびっくりだったね、と話し、「家にいるとき何してた?」という友人からの質問には、このnoteのことを答えた。  「うんうん、外に出ないから、向き合うものが自分しかなかったよね。」 続けて、  「私は断捨離をしたんよ、星野源のCDやらDVDやら雑誌やら、いっぱいあったものを全部手放した、すごく好きなんだけど、好きだから

          好きなものに蓋