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目を覚ますと脱ぎ捨てられたTシャツとテレビが教えてくる最高気温38度。
暑中見舞いに送られてきたどこかの名物の饅頭が甘ったるくて
寝起き早々何食べてんだよ、と徐に麦茶を飲み干す。
少し遅めに訪れたこの季節にも慣れてきてしまった。
徐々に大きな声で鳴き出してるアブラゼミの声に耳を塞ぐ。

何か忘れちゃってるなぁそんなことを思っていると、
食器棚の扉で額を思い切りぶつける。
蘇る記憶、人でごった返す花火大会、汗拭い足早に帰路に着くサラリーマン
乱雑に着崩された学生服、無駄にクーラーが効き過ぎたバス、
いつもより少し長めに開けてしまう冷蔵庫、
足の裏を焦がすコンクリート、熱風しか送ってくれない古い扇風機
どこに置いてきたかなあ、ぼんやりと額から陽炎がのぼる。

全てが物足りないはずなのに、去年よりも多く汗をかいている。
紺色のTシャツの滲みは濃くなる一方で、塩辛い結晶が頬を撫でる。
どうしてだろうか、ざらっとした感触がいつもより物足りないんだ。
砂浜で走り回ったあとのビーチサンダルみたいな感覚が何度も背筋を伝う。

くだらないテレビ番組に寒気を感じて電源ボタンを連打する。
気を紛らわすかのようにベランダに出て煙草に火をつけると
なんだろう気持ちのいい夜風が舌先を刺激して。
寝静まった街では去年がかくれんぼしてるみたいで、
種類もない有象無象の虫たちが、せせら笑いをしている、
足りないのはなんでもないお前なんだと。
特別なことなんて一つもありゃしないこんな季節、
目隠しして棒を振りかざして何かを叩き割るように、
網戸を思い切り締めるんだ。

明日の最高気温は何度だろうか。

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