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「モンスターファーム」の思い出

『ポケットモンスター ソード・シールド』が発売され、一週間で600万本を売り上げるポケモンフィーバーが巻き起こり、世界中でモンスターが育てられまくっている昨今だが、
今日語りたいのはそれとは別のモンスター育成ゲームの話だ。
そのゲームとは、TECMOの「モンスターファーム」
22年前にプレステで発売されたこのゲームが、本日Switch、スマホに移植された。
円盤石=CDから生まれたモンスターを育成して対戦するという非常に個性的で味わい深いゲームに改めて触れられるこの機会を勝手に祝って、僕のモンスターファーム思い出話を書こうと思う。
(ちなみに極力何も調べずに思い出のみに頼って書いたので、間違いがあったらすいません。)


1997年に発売された「モンスターファーム」は最終的に売上70万本以上というスマッシュヒットを記録したのだが、実は発売当初はそれほど話題になっていたという記憶がない。
少なくとも、ゲームだけでご飯3杯いける小学生集団の中で、モンスターファームを発売日に買ったのは自分だけだったと記憶している。
これについては、当時の僕たちのゲームの購入基準に大きな影響を与えていた「ファミ通クロスレビュー」に触れておかないとならない。
ゲーム専門誌「ファミ通」では発売間近のゲームを事前に4人の編集者がプレイし、 1人持ち点10点の計40点満点でレビューするという人気コーナーがある。
このコーナーの、僕たちキッズへの影響力は凄まじく、32点以上を叩き出したゲーム=「殿堂入り」の称号を与えられたゲームは、「マストプレイ」の対象となった。
そんな中で、のちに熱狂的なファンを生むことになる「モンスターファーム」は、実は殿堂入りしていない。
当時は殿堂入りに一歩及ばないゲームに送られる「シルバー殿堂入り」システムもなかったので、モンスターファームは無冠だった。

つまり、「まぁまぁのゲーム」という評価を下されていたのだ。

そもそも前年に発売されたポケモン赤緑直撃世代である僕たちは、「モンスター」と聞くだけで無意味にテンションが上がって走り回りたくなるという重い病を抱えている。
そこにつけこんだ闇の遺産として、ポケモンブームに便乗しただけの「しょうもないモンスターゲーム」を大量に掴まされてきたという苦い経験があるのだ。
そうした経験値から「モンスターのゲームには気をつけろ、名作だけを見極めるんだ」という無駄に鋭敏になったモンスター・クソゲー・センサーが備えられおり、クロスレビューでそこそこの点数しか取れなかった「モンスターファーム」は黄色信号、危険作のレッテルを貼られてしまった。

さて、モンスターファームを広告で知った僕は、このゲームに熱いトキメキを感じていた。
「CDからモンスターが誕生する!」「そいつに食べ物をあげたり、修行したりして、一緒に大会の頂点を目指す!」
こいつは、僕の求めていた最高のモンスター育成ゲームなのでは…?
事前に出た記事はそれほど多くなかったと思うが、1枚1枚の写真を食い入るように見つめて、発売を心待ちにしていた。
そうしたらクロスレビューで殿堂入りしなかったので、ちょっと困った事態となった。
というのも当時、ゲームには「友達に買わせる」という隠れた、しかし重要なフェイズが存在した。
ネットプレイなど無い時代、対戦ゲームや交換ゲームには、一緒にプレイする「ゲーム仲間」が必要だった。
しかしキッズの所持金は限られているゆえ、そう何本も何本もゲームを買うことはできない。買うべきゲームは、選び抜く必要があった。
僕は運動神経が著しく低いのが影響してか「アクションゲームが超苦手で、RPGや育成ゲームばかりやっている」というゲーム内ですら超インドア派だった。
それゆえ、友人たちがみんなで一斉にアクションゲームやスポーツゲームにハマると「1人でひたすら対戦相手のいないモンスターを育成する」という状況によく直面していた。
それはそれで楽しいわけだが、ゲームの広がり的にも対戦相手や交換相手はいるに越したことはない。
そのため、当時の少年たちには「このゲーム面白そうだよ、お前もやろうぜ」というプレゼン力も必要だったのだ。
そういう意味でクロスレビューでのそこそこの点数というのは痛手だった。
僕以外の全員が、明らかに興味を失ったのが手に取るようにわかった。
しかしそれでも、僕はこのゲームに何か特別な物を感じずにはいられなかった。
「これは誰も買わないな…、それでも…やりたい!」

発売日当日、僕の「モンスターファームやりたさ」はピークに達していた。
どれくらいかというと、プレステ本体をリュックに入れてゲーム屋に出かけたくらいだ。
というのも自宅よりも、祖母の家の方がゲーム屋にちょっと近かったので、祖母の家のテレビにプレステを繋げば、20分くらい早くゲームをプレイできる。
そうした必要以上にストイックな判断のもと、プレステ本体持参でゲーム屋に向かい、モンスターファームを買った。

今でも、最初のモンスター(ライガー)に、香り餅をあげた瞬間を鮮烈に覚えている。
目の前にいるモンスターが、どんなゲームより生き生きと、リアルに存在しているように感じた。
少しずつ成長していくモンスター、それに応じて大会も勝ち進み、次第に人気が高まったり、家を増築できたりする、助手のホリィさんと二人三脚の牧場(?)経営。
面白すぎるぞモンスターファーム…!
そして、迎えた相棒の死。
モンスターファームのモンスターには寿命があり、ある程度育てると死んでしまうのだ。
そのためモンスターを冬眠させて、その力を次世代のモンスターに受け継がせることで、少しずつ強いモンスターを作っていく。
別れを乗り越えて、受け継がれていくというゲームシステムがビターで、心に深く残った。

CDからモンスターが誕生する円盤石システムも、宝探しのようでワクワクした。
ディノやライガーのようなオーソドックスなモンスターもさることながら、当時の僕はガリやモノリスのようなSFマインド溢れる連中にシビれていた。
(この手のモンスターが誕生するとホリィさんが「なんかヘンテコなモンスターだね…」と苦笑する。)
家中のCDを再生するのは当然で、CDをたくさん持っている友人の家に押しかけては片っ端から再生しまくった。
ほとんどは大してレアじゃないモンスターが誕生するのだが、たまに大当たりに出会うこともあった。
「あいつはレアモンが出るCDを持っているらしいぞ」という情報を聞きつけては、大して仲良くも無い友人の家にモンスターの奪取に向かう、ほとんど押し入り強盗だった。
モンスターの再生のためだけに家に押しかけた当時の友人たち、ごめんね。
その頃には、すっかりモンスターファーム漬けなっていた。

こんな面白いゲーム、学校中に広めなくては…!
謎のインフルエンサー使命にかられた僕は、いかにモンスターファームが面白いかを説いて回った。
その結果、ちらほらと購入する友達が現れ、「モンスターファーム、面白いぞ」という口コミが広がり、プチブームが起こったのだ。
すでに結構やり込んでいた僕は、校内のモンスターファーム・パイオニアとして、情報強者として、したり顔であった。
しかし、そんな中で事件が起きた。
隣のクラスのちょっと変わり者だったHくんがモンスターファームをやっているというので、近所だった彼の家に遊びに行った時のことだ。
衝撃が走った。
彼のモンスターは全ステータスMAXの999だったのだ
実は、モンスターファームには、どんなモンスターでもアイテムを使って寿命を伸ばし、ステータスMAXに育てられるノウハウがある。
ガチの対戦では、それは大前提で、そこからモンスター固有の要素が鍵を握ってくる。
Hくんはすでにそのノウハウを熟知していたのだ。
ある程度育てて満足していた僕は、メジャーリーグの凄さを目の当たりにした野球選手の気分だった(念の為言っておくが、野球の知識ゼロである)。
すぐさまノウハウを学習し本気の育成に取り掛かり、ステータスMAXのモンスターを1体育て上げた。
気づけば、そこまで「モンスターファーム」にハマっていたのは僕とHくんだけだったので、二人で延々と対戦していて季節が過ぎていった。
さらにモンスターファームの大会にも観戦に行った(幕張メッセだったと思う)。
上位陣のほとんどが「ガッツ回復」という固有値が高い特定のモンスター(ミントとベニヒメソウ)を使用していて、さらに次元の違う戦いが繰り広げられていた。
帰宅してから、ますます育成にハマったことは言うまでもない。
そうこうして、しばらくしたら「モンスターファーム2」が出て、これが一作目を超える大傑作であり、さらにハマり込むのだが、その話はまたいつか。

「モンスターファーム」は、今思うとバランスが優れたゲームではないし、
モンスターのデザインやCGも拙さというか、一種のクセがある。
だが、その独特のムードが、今でも忘れられないひっかかりになっていると改めて思う。
ホリィさん言う所の「ヘンテコなゲームだね(苦笑)」といったところだろうか。
僕は、当時の思い入れMAXなのでスマホ版の「モンスターファーム」をプレイして感動が湧き起こってきたが、今はじめてプレイする人にはどういう印象なのかわからない。
願わくば、あの日、祖母の家で感じたあの感動が、Hくんと追いかけたあのワクワクが、新しい誰かにも訪れていると良いなと思う。

最後に、僕は本職ミュージシャンだが、
この1年で関わってきた作品からモンスターが生まれるようになっている。
よかったら検索して再生してみてください。
(そして、よかったら曲も聴いてみてください)

オワリカラ「PAVILION」→アマノガワ
開歌-かいか-「歌の咲く島」→ベニヒメソウ
科楽特奏隊「怪奇と正義」→モノリス
大槻ケンヂミステリ文庫「アウトサイダー・アート」→ゴースト


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髙橋表裏/タカハシヒョウリ
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