亀の手 3

もうどれぐらいここにいるのだろうか。携帯も時計も何もない。朝なのか、夜なのか。中なのか、外なのかもわからない。

ただ、とにかく黒い。誰もいない。最初に手を差し出したときに霧が晴れたように見えたのは、もしかしたら錯覚だったかもしれないとさえ思うようになってきた。

「もし、一生このままだったらどうしよう」

そう思うと、途端に不安が襲ってきた。声を出したくても、声の出し方を忘れていた。走りたくても、視界が黒くてわからない。怖いのか、不安なのか、楽しいのか、嬉しいのか、わからない。



目を開ける。どうやらわたしは、眠っていたようだ。

トンッ

背中に何かがぶつかってきた。思わず振り向くと、目が大きくて土色をした大きな亀が1匹こっちをジッと見ている。この状況にピッタリの言葉が見つからなくて、それは笑い交じりの呼吸となってわたしの外へ漏れた。


亀はわたしをジッと見た。吸い込まれそうな瞳を見ることができず、わたしは何度も目をそらした。

「なにやってんの?ほら、行くよ」

亀がそう言った途端、黒がパッと晴れてわたしは空の上にいた。細い、細い、でもしっかりと固定されたワイヤーの上で綱渡りをしていたわたしは、どこへでも飛んでいける鳥になっていた。


振り向くと、目が大きくて土色をした大きな亀は既に背中しか見えなかった。追いつこうと羽を一生懸命動かすが、結局追いつくことができないままどこかへ行ってしまった。


わたしは鳥、どこへでも行ける。もし、また黒に迷い込んでももう大丈夫。だって、目が大きくて土色をした大きな亀が来てくれると知っているから。



目を開けると、そこは空の上だった。


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