見出し画像

RELEASE HYPE -Kendrick Lamar-

注目のリリースを控えたアーティストを特集!
第一回は5年ぶりのアルバムを5月13日にリリースするヒップホップ界の圧倒的王者、Kendrick Lamar
唯一無二のラップスタイルに注目して、アルバムをより楽しもう!



5月13日にリリースが予定されている彼の最新作『Mr. Morale & The Big Steppers』に関して、アートワーク以外の詳細はまだわかっていない。

これまでの彼のディスコグラフィと今回のタイトルからして、またしてもコンセプチュアルな作品になっていることは期待できるだろう。
多くの音楽媒体では彼の“リリック”か新作の“サウンド”をテーマに取り上げられるのではないだろうか。
しかしラップミュージックを聴く以上は、彼の“ラップスキル”にもぜひ注目してみてほしい。ラップミュージックの新たな魅力を感じることが出来るはずだ。

「Collard Greens」という曲をご存知だろうか?

ScHoolboy Qが盟友Kendrick Lamarを客演に呼んだ2014年リリースの曲で最近はTiktokでミーム化しているらしい。

KendrickもQもCollard Greens(札束のスラング)を稼いでモテまくってるイケイケな自分について歌っているのだが、二人の楽曲に対するアプローチは対照的だ。
ScHoolboy Qのバースは電車のジョイント音のような規則的なトラックに合わせるよう、常に一定のリズムで言葉を乗せることで心地よさを生み出している。
一方でKendrick は倍速や逆に半分で取るなど、トラックに対して様々な形でアプローチし、まるで蛇がのたうち回るかのような忙しない構成で次の展開を予想させない。

Kendrickは、一つの曲のなかで声色リズムスピードを何度も変化させることでバースの展開を構成する。そしてそれが彼の音楽性の魅力の一つだ。
多くのラッパーはラップを歌唱する際リズムを“キープする”事に重きを置いている。多少、バース中で倍速にしたりフロウのタイミングをずらしたとしても、例えばビートの4拍目かその倍数で必ずライミングするなどある種の“予定調和”が用意されている。
だがKendrickは一つの曲、いやむしろ一つのバースの中ですら三連符や五連符を多用しライムのタイミングをずらしまくる。わざともたついたような歌い方をしたり逆に走らせたりする。

何故彼はこのような様々な手法を曲中で使うのだろうか?

当然色々な理由があるのだろうが、彼がラップを通して伝えようとする要素のうち、最も優先度の高いものが“ストーリー”であり、その粒度を高めるためのツールとしてこれらの表現技法を使っているというのが私の解釈だ。
例えば子供に「三匹の子豚」の童話を読み聞かせる時、狼の台詞を話すときは少し荒々しげに、レンガの家を建てる豚の台詞はしっかり者な印象で読むのではないだろうか。
Kendrickは言葉による情報伝達を行うにあたり、言葉そのもの以外にも重要な要素があることを理解しておりそれらを自身のラップに落とし込んでいる。

そのような演技力を武器として持つからこそ、彼の曲ではKendrickの目線ではなく、登場人物になりきって歌うことが非常に多い。
酔っ払いを演じたければ酩酊したハッキリしない口調で歌うし、焦っている事を表現したければトラックに対して走り気味にラップする。 イタコのように憑依させて言葉を紡ぐことで、その曲の説得力を強化している。
Slick Rickの「Children's Story」やEminemの「Stan」など、曲中の登場人物を演じ分けるテクニックは以前から無かったわけではない。
ただKendrickのように「言葉以外の表現技法」をここまで高いレベルに昇華したラッパーは居なかったのではないだろうか。
※その上で“言葉”も凄いからこそ彼はGOAT(Greatest Of All Time)論争で常に名前が挙がる存在になっているのだろう。

Kendrickのリズムのずらしや声色の変化など「言葉以外の表現技法」を堪能できる作品は挙げていけばキリがない。
代表的なものだけでも「A.D.H.D.」「Backseat Freestyle」「swimming pools」「For Free?」「u」「These walls」「XXX.FEAT.U2.」「DUCKWORTH.」「The Heart」 シリーズ等々、自身名義の曲だけでもここに書ききれない程ある。


その中でも今回最後に紹介したいのは2018年にLil Wayneに客演した「Mona Lisa」だ。

ある美しい女性が複数の男たちを騙して金品を奪っていく。その裏で糸を引いているのがWayneとKendrickだというストーリー。  
Wayneは自身の犯罪計画について様々な言葉遊びを駆使しながらラップしていく(これはこれで和訳などを調べてみてほしい)。
一方のKendrickはまず冷静な口調で情景表現を行い、どのように男が騙され始めているかを描く。その後騙した側ではなく、自分自身が騙された男になりきってラップしていくのだ。
男は自分が騙されていることに気づき、証拠を掴むために語気を荒げて彼女の携帯を奪おうとする。証拠を掴んだ後はこれまでたくさんの愛情を送ったにも関わらず、「なんで裏切った…!」と泣き出す。ついには銃を持ち出すが、最後には彼女ではなく自分自身に銃弾を放ち自殺するのだ。
少しずつ感情が爆発していき、最後には声を震わせ泣き出す表現はもはやラップの域を超え、まるで映画のワンシーンのようだ。 彼の「言葉以外の表現技法」の真骨頂と言えるだろう。

Written by : カス照れ男(@karstereo)



日本時間9日の朝にアルバムリリースに先立って、新曲「The Heart Part.5」がMVとともにドロップされた。

2010年の「The Heart Part.1」から続く「The Heart」シリーズのパート5で、全編にわたってMarvin Gayeの名曲「I Want You」がサンプリングされている。
MVではKendrickがワンカットでラップする姿が映されており、その顔が次々に別の者へと変化していく。そこに模されているのは、OJ Simpson、Kanye West、Jussie Smollet、Will Smith、Kobe Bryant、Nipsey Hussleだ。
曲の後半では、2019年に33才の若さで凶弾に倒れたNipsey Hussleを憑依させて彼の思いを代弁するようにラップする。
リズムのずらしや声色の変化、並外れた演技力など、前述のコラムで紹介した彼の表現技法が詰め込まれている。

各メディアではアルバムからの先行リリースと報じられているが、これまでの「The Heart」4作はアルバムには収録されておらず、今回も収録されない可能性が高いのではと踏んでいる。
全貌の見えない最新作『Mr. Morale & The Big Steppers』のリリースまで、新曲や過去のアルバムをチェックしておこう。

Edited by : 漂流音楽


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?